第348話

「ご主人様、本当に伊邪那美命様なのですか?」


 再度、聞いてくる白亜に、俺は首を傾げるが――。


「マスター、神が受肉して存在していることはありえない。神代時代が終わった時に神たる肉体も消えたはず……」

「そうなのか?」

「そういう事になっている」

「そう言う事になっている?」

「本来、神の肉体は不変なモノだと明石文書に書かれている」

「ほう。神社庁も、それなりの情報を有しているのだな」


 感心したかのように伊邪那美が笑みを浮かべる。


「明石文書?」

「マスター、15万年前に存在した超古代文明の人類名のことを明石人類、そして明石人類が残した古文書が明石文書とされている。そこに誕生した神の肉体は、不変にて不滅だと書かれていた。ただ神代の時代が終わった時に、何らかの異常が起きて、その力は失われたと書かれていた」

「ほう」

「伊邪那美、エリカが説明した内容は本当なのか?」

「間違ってはおらん。ただ、妾からは伝える言葉はないがの」

「パンドーラ」

「ごめんなさいね。私は作られてから3000年も経過していないから、そのへんのことは分からないわ」

「はぁー。そうか……。だから、神が受肉している事はあえりないと、エリカは言ったのか?」

「そう。神代の時代が終わったのにありえないし普通に考えて神が肉体を持ち現世に関与してくる事なんて、あってはいけない」


 俺は伊邪那美の方を見る。


「まぁ、二人とも、そこまで緊張するものではない」


 いつの間にか、コーラを片手に伊邪那美が目を細めると、そう言葉を紡ぐ。


「神々の全てが、御霊の姿になったと多くの者は思っているようだが、それは真実ではない。力ある者――、信仰心が高い神などは肉体をもっておる。ただし、普段は使っていないだけなのだ」

「――つ、つまり……、伊邪那美命様の身体は本来の神の力を有してる?」

「そうなるの」

「――でも、神話では……肉体は黄泉の国の住人になったはず……」

「妾の肉体は、桂木優斗が作ったもの。まぁ良くは分からんが、遺伝子とか、そんなモノを増やして作ったと言っておった。だから、まぎれもなく、この体は、伊邪那美命本人である」

「マスター……」


 困惑した表情を俺に向けてくるエリカ。


「まぁ、やってしまったことは仕方ないからな」


 都を守るためなら、神を復活させる事なんて些細なことだ。


「まぁ、妾も、態々、人間の世界に干渉しようとは思ってもいないし、他の神々も同じ考えであるから安心してよい」

「それは信じていい?」

「もちろんじゃ」

「そう。ならいい……」

「いいのか?」

「うん」


 コクリと頷くエリカは溜息をつくと俺の服裾を掴んでくる。


「マスター、これは貸し」

「どういうことだ?」

「神様が降臨しているなんて神社庁が知ったら、世界中が大変なことになる。だから、黙っておく」

「そういうことか」




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