第347話
携帯電話を取り出す。
「お兄ちゃん?」
電話口に出たのは、俺の妹の胡桃で、俺が電話したことを不思議に思っているようであった。
そういえば、最近は帰宅する前に電話していなかったな。
「俺だ。エリカは居るか?」
「うん。いるよ! 今、夕食を白亜さんと作っているの。電話に代わる?」
「ああ、頼む」
「マスター? 電話変わったのだ」
「エリカ。ちょっと頼みがあるんだが……」
「マスターが私に?」
「ああ。ちょっと、エリカにしか頼めないことがあってな」
「頼めないこと……。それは、ロシア料理を作ってほしいということ?」
「違う。そっちじゃなくて霊能力者としてのエリカの力を貸してくれ」
「ん……。分かった。どこに行けばいい?」
答えようとしたところで、「――何々? ご主人様から連絡か? エリカ」と、白亜の声が電話口から聞こえてくる。
「マスターが、神薙の力を貸して欲しいらしい」
「なるほど。それでは、妾も力を貸そうではないか! 妻としては当然であるな!」
「白亜には聞いていないし、要請も来てない。私、一人で十分」
「まぁ、そういうな、エリカ。ご主人様から手伝いを要請されることなど少ないのじゃ。ここは分け合って対応するのが、良いのではないのかの?」
電話の向こうで、白亜とエリカが会話をしている。
「お兄ちゃん」
「胡桃か。電話を代わったのか?」
「ううん。そうじゃなくて、どっちがお兄ちゃんの手伝いに行くのかって話になっていて、言い合いになっているの」
「それなら胡桃と同伴で二人とも来ればいいだろ」
「――え? いいの?」
「いいもなにも、こんな下らないことで時間を浪費したくないからな」
「分かったの!」
電話を置く音が聞こえてきた後、胡桃が二人に提案をしている声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、それじゃ、いまからそっちに行くね」
「ああ。場所は――」
「ご主人様の場所は、こちらで把握しているのじゃ」
言いかけたところで、白亜の声が聞こえてくると共に、室内に突風が舞い起こる。
そして、風が止んだところで、巫女服のエリカと白のワンピースを着た白亜に、キャミソールとミニスカートの胡桃が、目の前に姿を現した。
「ご主人様、待たせたのじゃ」
「お前、人様の事務所の中がヤバイことになっているんだが……」
俺は呆れるように溜息をつく。
いくら何もない事務所の中と言っても書類などはある訳で、そう言ったモノが突風で殆ど調度品が置かれていない室内にバラまかれてしまっていた。
「あ……」
「だから、場所を教えようとしたというのに……」
「申し訳ないのだ……」
「俺じゃなくて、山崎に謝罪しろ」
「山崎?」
白亜の視線が、俺の視線に釣られて山崎の方へと向けられると同時に、白亜は突然、跪き頭を垂れた。
そのいきなりの行動に、エリカも何事かと思ったのか、その視線を山崎の方へと向けた途端、床に膝をつく。
「ど、どうしたの? お兄ちゃん……」
どうやら、妹は、妙な行動を取るようなことはないようで安心した。
「さあ? 何だろうな……」
「ふむ……。妖狐に神薙か……。存在力を隠している妾の神力を見抜くとはの」
「マスター。どうして主神クラスの神が、こんな場所に……」
「知り合いだ」
額から汗を流しながら、俺に尋ねてくるエリカに答える。
「それにしても空弧クラスと桂木優斗が知り合いだとは思っても見なかったの」
「そうか? それよりも威圧を解いてくれないか?」
「ふむ。別に威圧はしておらぬがな……。そこらのもの、楽にするとよい」
伊邪那美の言葉と同時に、エリカと白亜が身体の自由を取り戻したかのように、床の上にへたり込む。
「ご主人様。あの方は……。黄泉の力を強く感じまする。まさか……伊邪那美命様なのでは?」
そう俺に確認するかのように聞いてきたのは白亜。
「ああ。よく分かったな」
俺の答えに、白亜は口を大きく開けて信じられないといった表情を見せた。
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