第342話
「それでは受けて頂けるという事で宜しいのでしょうか?」
再度、確認するかのように東雲が問いかけてくる。
俺が、この場所に来た時点で依頼を受けることは確定しているというのに、保険を掛けるように確認してくるとは……。
「東雲。依頼を受けるかどうかの前に聞きたいんだが、先ほど聞いた内容程度のことで、こんな場所まで俺を連れてくる必要はあったのか?」
「必要があります」
「俺は、あまり歴史に関しては詳しいことは知らないが、普通に考えたら、こんなセキュリティの高い場所で話すような内容ではないと思うんだが、他に何か話したい事があるんじゃないのか?」
「ふう……」
小さく溜息をつく東雲は、真っ直ぐに俺へと視線を向けてくる。
「やはり気づかれましたか」
「当たり前だ」
俺が、異世界でどれだけの依頼を受けてきたと思うんだ。
第三者の目が届かない場所や、秘密の場所などで話す内容と言えば、表沙汰に出来ない裏の事情が絡んでいる事はよくあることだ。
「実は、六波羅命宗が蛇神を作ったという話が神社庁の奥の院では主流となっています」
「どういうことだ?」
「先ほど、出雲大社より巫女を諏訪へ派遣したという話をしましたよね?」
「そうだな」
「正直、江戸初期の時代の巫女の力は、今の神薙よりも強いと言って過言ではありません。それなのに、命を賭しても封印するのが関の山というのは――」
「神社庁は、納得できないという事か?」
「はい。それに、移動をして封印を行うという事は、かのモノの特性を知っておく必要があります。とくに、現代の神薙よりも強い力を持つ巫女が封じた蛇神を封印するのですから、手順を確立しておく必要があるのです」
「それは、つまり人為的に今回の事件が起こされたと考えているのか?」
「神社庁の奥の院は、そのように考えております。ただ、これは表沙汰に出来る話ではありません。神社と仏教は、互いに争う事がないように長い時間をかけて歩み寄っていますから」
そこまで聞いて、俺は得心がいった。
どうして神社庁の神薙が率先して動かないのかと言う事――、それと同時に、六波羅命宗でもなく神社庁が俺に直接依頼をしてきたのかと言う事を。
額に手を当てながら思考を加速させつつ口を開く。
「つまり、神社庁としては仏教サイドとゴタゴタしたくないから、部外者の俺に解決を依頼したってことか。――で、ここで話すのも神社庁の中に仏教側と繋がっている信奉者が居ると考えての……」
「はい。仏教関係者は、一般の方が思っているよりも多く存在しておりますので、情報漏洩した場合、神社側と仏教側との間で問題になってしまうと困りますから」
「はぁ……。俺なら、ゴタゴタになっても問題ないと? 一応、俺は警察に籍を置いているんだが?」
「あとは陰陽庁のトップでもありますよね?」
「まぁ、それはそうなんだが……」
「なら、問題ないかと。陰陽庁は、仏教側と良好とは言えない関係ですので、万一、関係が悪化しても、これ以上は悪くはなりませんし、何より桂木さんは陰陽庁のトップですし、命を狙われても対処できるでしょう?」
「まぁ、それはそうなんだがな……」
俺は盛大に溜息をつく。
つまり、神社庁と仏教側――、両方の体裁を考えて俺に依頼してきたと。
「つまり、俺の仕事は、蛇神の詳細調査と、討伐ってことでいいんだな?」
「はい。そのように考えて頂ければ幸いです」
「まったく――、呪いもあるんだろう?」
「その点は、私は心配しておりません。桂木さんは、呪いを喰える体質なのでしょう? アディールから提出された業務報告に書かれていました」
「余計なことを……」
「アディールは……、彼女は彼女なりに最後の務めを果たして、桂木さんの元へと身を寄せました。ですから業務の一環ですので、アディールを攻めるような事はしないでください」
「しねーよ。第一、知られても困る話じゃないからな」
「否定はされないのですね?」
「まぁ、隠す内容じゃないからな」
冒険者としては隠したいというのはあったが、知られた以上、隠すほどのモノではない。
「とりあえず、仕事の依頼は受けた。現状の把握が出来るまで蛇神が存在する可能性がある一帯の封鎖をしておいてくれ」
「承りました。それでは、すぐに現場までの車を用意します」
「――いや、必要ない。すでに用意はしているからな」
「分かりました。それでは、何卒よろしくお願い申し上げます」
東雲からの依頼を受けたあと、俺は商工会議所の建物を出たあと、すぐに山崎に電話する為に、懐から携帯電話を取り出した。
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