第343話
千葉駅近くの裏路地を歩く。
山崎と話した際、今日は迎えに来ることは用事があり難しいという事だったので、俺から出向いた訳だが……。
「思ったよりも近かったな……」
俺は、スマートフォンで地図を出しながらビルの名前を確認していく。
周囲には大手通信会社の千葉支社や全国展開しているコンビニ、ラーメンショップなどがあるが、どれも待ち合わせ場所としては不適切だ。
何よりビル名が違う。
「厚木ビルと――、厚木ビルと……」
番地を確認しながら、裏路地を歩き俺は足を止める。
ビルは、元々は白色だったのが薄汚れてクリーム色になった3階建ての建物。
2階と3階は、どうやらテナントが入っていないようで、灯りは見えない。
「1階は小料理屋『美幸』か……。ここは違うよな……」
俺は、スマートフォンを見比べながら、山崎が待合場所として指定してきた厚木ビルの近くにとどまりながら、アップルという店を探す。
「見つからないな……」
仕方なく、周囲を散策するが、やはりアップルという店はない。
もしかして住所が違っているのか? と、思い山崎に再度、電話をしようとしたところで、厚木ビルの地下に20人近くの男女が階段を降りていくのが目に入った。
どうやら、千葉駅の方から来たみたいだ。
「すまない」
先ほどまで、まったく人通りが無かったから待ち合わせの店を誰かに聞くことは出来なかった俺だったが――。
「あ? 誰だ、あんた」
「実は、この近辺でアップルという店を探しているんだが、知っていたら教えて貰えないか?」
「アップル? ああ、ここだぜ! それより、あんた……高校生だよな? 大丈夫なのか? もうすぐ午後8時だぞ? 補導されてもしらねーぞ」
何だか知らないが、どうやら悪い奴ではないようだ。
それどころか俺のことを心配してきてくれる以上、良い奴ですらある。
「実は、知り合いと待ち合わせがあって、場所を探していたんだ」
「場所? ああ、それで店を探していたってことか?」
「そうなる」
「なら、ここの地下だぜ。ライブハウス『アップル』って言えば、千葉では、そこそこの箱だからな」
「そうなのか……。ありがとう」
「良いって事ヨ! バンドを聞きにくる奴は仲間ダカラナッ!」
「お、おう……」
何故か気さくな様子で立ち去る革ジャンを着た男は階段を降りていく。
そこで俺はようやく下へ降りる階段の横に立てかけられていた看板に気が付く。
「たしかに……ライブハウス『アップル』って書かれているな。それにしても、ライブハウスを待ち合わせ場所に指定してくるとか、そんなにお気に入りのグループでもいるのか?」
看板を見ていくが、バンド名が英語の殴り書きで書かれた文字列が並んでいるだけ。
「まったく山崎は何を考えているのか……。おっ! これだけは読めるな……、バンド名『ファイナルゴット?』か……。また変な名前のバンド名だな……」
思わず溜息が出る。
「とりあえず、地下に降りるとするか……」
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