第341話
「物騒な世の中だな――」
「まぁ、ただ――、呪物関係の物も盗む窃盗団もいますから、そういう方々は不審死を体験する事になりますから、回収は楽でいいのですが――」
「違う意味で物騒だな」
扉が全て開いたところで、奥に木製の両開きの扉が姿を現す。
その扉を手で押して開けたところで、目に飛び込んできたのは学校の体育館の数倍の広さの部屋に所狭しと並べられた本棚と、そこに並べられているファイルの数々。
「本ではないんだな……」
「はい。紙ですと劣化しますから――」
一番近くの本棚から、東雲はファイルを取り出すと俺へと差し出してくる。
「竹ノ内文書? どこかで聞いた名前だな」
「名前ではなく神代文字で書かれた文章になります。ただ、それは不完全なモノですが――」
「神代文字ね……」
「ご存知ですか? 神の力を有しているのでしたら記憶も有して――」
「いや、全然、知らないな」
「そうですか。神代文字というのは3000年以上前に日本に存在していた古代文明時代に使われていた文字とされています。どこまで信憑性があるかは計りかねますが、一応は、そう言った書物は複製などを、ここでは管理、研究しています」
「なるほどな……」
それにしても3000年前か。
「それでは、今回の桂木さんに討伐依頼をお願いした書物ですが――」
扉近くの棚に置かれているノートパソコンを起動し、キーボードを手慣れた手つきで打っていく東雲は、画面が表示されたところで、パソコンから離れる。
そして少し離れた場所まで歩いて行ったかと思うと、ファイルを手に戻ってくる。
「えっと、こちらになります」
受け取ったファイルには、『諏訪の蛇神』についてという題名が書かれている。
「諏訪の蛇神ね……」
ファイルを開き、中を見ていくと諏訪湖には、国津神たる龍神が祭神として奉られていたという事が書かれている。
「敵は龍神なのか?」
「――それは、分かりません。ただ、奉られている建御名方神(タケミナカタ)の存在は、神薙が気配を感じたという事ですので、今回の騒動には関わってはいないようです」
「つまり、敵は龍神以外ということか?」
俺の言葉に、東雲は左右に頭を振る。
「どういうことだ?」
「桂木さんも、神薙の力は、アディールを見てご存知かと思いますが、神薙は相当な力を有しています。そして神薙は、普通の魑魅魍魎程度でしたら、どんな状況においても遅れを取ることはありません」
「つまり、今回は、別の神薙も絡んできているという事か?」
「はい。私も詳細は詳しくは知りません。ただ、神社庁設立前の江戸初期に原因不明の呪いが諏訪地方一帯で広まったとされています。その際に、出雲大社から神社庁の神薙に匹敵する巫女が派遣され呪いの原因である蛇神を命を賭して封印したとあります」
「たしかに……」
ファイルにも、そのように書かれている。
「ただ、その呪いの力は強すぎたようで、一か所に止まる事はよろしくないとされ、封印は定期的に移動して封印し直さなければいけない事になったようです。そうしなければ土地が呪いの蓄積により汚染されてしまい疫病が発生したと」
「――で、今回は、それが関与しているということか?」
「はい。今年中に封印地を移動する予定だったそうなのですが、六波羅命宗の僧侶が到着する前に、何者かが封印を破壊したと報告がありました」
「なるほどな……。つまり原因は蛇神という存在だが、どういった存在かは不明。ただし、神薙が命をかけて封印するほどのモノであったと……」
「そうなります」
「厄介だな」
さすがに敵が、どういったものかまったく分からない状態で戦いに赴くのはリスクが高い。
しかも、心霊現象になると視る事ができないと、俺には対処できない。
「はぁ、どっちにしても一回行かないと何ともならないな」
出たどこ勝負をするしかないか……。
――いや、国津神なら俺にも知り合いがいたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます