第333話

「それだと……」

「――ん?」


 俺は、諦めると思っていただけに、純也の俺のアドバイスを否定するかのような言葉に――、純也を注視した。


「優斗には、追いつけない」

「追いつけないと言われても困るな」


 肩を竦める。

 そもそも、どう修行を積もうと――、どんなに才能があろうとも、相手と対峙した時に殺すという覚悟がない限り、格下にすら負けるのが戦場の常識だ。


「前にも言ったが、相手を殺す覚悟もない時点で、俺と同じ土俵に立てるとは思うなよ?」

「――ッ」

「それと、学校には、きちんと登校しろよ」

「言われなくても――」

「なら、いい」


 俺は、純也を、その場に放置し歩き去った。

 学校に到着した時には、すでにホームルームは終わり、一限目の途中だった。

 教師に遅れてきた事を伝え、授業に参加する。


「相変わらず分からん……」


 古典の授業。

 まるで呪文を聞いているかのように、眠くなってくる。

 大体、古典って社会人になって必要なのか? と、言う当然な疑問が上がってくるが、俺は歯を強く噛みしめ授業を聞く。

 忍耐と精神をガリガリと削っていく古典の授業が終わったところで、俺は机の上に崩れ落ちる。


「優斗っ」

「都か……、どうかしたのか?」

「大丈夫? すごく眠そうな顔で授業を聞いていたけど……」

「あれだ……。苦手な授業は眠くなるみたいな……」

「でも優斗って、古典とか国語は得意だったよね? いつから苦手になったの?」

「そうなのか?」

「そうなのかって……、前から思っていたけど、優斗って、もしかして……」

「ん?」

「若年性認知症?」

「ちげーから」


 俺は頬を机の天板に乗せたまま言葉を返す。

 そこで都の父親のことを思い出す。


「そういえば、都の方は何ともないのか?」

「えっと……、何の話?」


 きょとんとしたあと、そう言葉を返してくる都の様子に、都の親父さんが何も話していないのか、それとも先日、俺に話した内容はブラフなのか? と、考えてしまうが、じつの娘に話が来てないのなら問題ないだろうと結論づける。


「いや、何もなければ別にいいんだ」

「えっと……意味深な言葉で話されると困るの。最近、変な事多いじゃない? だから、些細な事でも教えて欲しいかな?」


 確かに都の言う通りだな。

 知っていて損はないだろう。

 そもそも都の父親に口止めはされてないからな。

 俺は都の父親が語った内容を伝えることにする。


「――と、いうことなんだ」


 会話の途中から無言になっていた都は、口を開く。


「えっとね。2日前から、お父さんが長野に出張しているの。たぶん、優斗が話してくれた事は本当だと思う。あれ? もしかして……」


 都が自身の頬に人差し指を当てると――、


「優斗って、お父さんと仲がいいの? 以前は、苦手ってイメージだったけど……」

「まぁ、仲が良いかどうかは別として、いろいろとあるからな」

「何? その何かありますよっていう話し方は――」

「男同士には、色々とあるんだよ」

「まさか……」


 真剣な表情になる都。


「優斗って、私よりもお父さんの方がいいの?」

「どこでどう考えたら、そうなるんだ」


 思わず溜息をつく。


「だって、男同士は色々あるって……」

「そっちの色々じゃないからな」

「じゃ、どういう感じで色々なの?」

「一言で言えば、男同士の友情みたいな?」

「へー」


 納得してない声色。


「でも、優斗とお父さんが仲良くなって私としては良かったかな?」


 笑顔を向けてくる都の様子に、俺は視線を逸らした。

 どう捉えれば、都の父親と仲がいいというのか。


 


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