第332話
「頼み?」
俺にボコボコにされたというのに、俺に頼みとは……。
「俺に稽古をつけてくれ」
「お前にか?」
思わず驚く。
普通なら、喧嘩別れした相手に対して戦闘訓練を頼むとは、俺には理解出来なかったからだ。
俺なら、間違いなく教えを乞う事はしない。
「ああ」
短く答えてくる純也の表情には迷いはない。
それを見て俺は――、
「戦う理由が出来たのか? それとも、俺に勝つために俺に師事するということか?」
首を横にふる純也。
「違う。俺に力が無い事は、よく分かった。だから、俺が一番、強いと思っているやつに戦闘技術を教えてもらいたい」
「……それは、戦う覚悟――、相手を殺す覚悟をしたということか?」
「――いや。相手を無力化する為に、力が欲しい」
「なるほど……。それなら、俺から教えられることはないな。神社庁か陰陽庁の連中に教えてもらった方がいいんじゃないか?」
「どうしてだ!」
「どうしてと言われてもな……」
俺は、溜息をつく。
「純也。お前には、俺が異世界でどう戦ってきたのかを教えたよな?」
「あ、ああ……」
「俺の力は、相手を無力化するモノではない。相手を殺す為の力だ。それ以上でも、それ以下でもない。つまり、力の本質が違う。なら、俺が教えるべきではない」
「それでも!」
「何て言われても、純也が他者を殺すという覚悟を持たない限り、俺は純也には戦い方を教えることはない。そもそも、純也は霊力を持っているんだろう? 式神を有しているのだから、俺が教えるよりも、もっと的確に力の使い方について教えられる人間がいるだろう?」
「だが――、東雲さんから話しは聞いた。優斗の力は、神薙の誰よりも強いと」
「だから、俺なのか?」
「ああ」
「悪いが、それは無理だ。俺の力は、普通じゃ身に着けることはできないからな」
「優斗――」
「どう思われても、俺から戦闘技能を教えるという選択肢はない」
純也の力は、謂わば先天的な才能によるもの。
そして、俺の力は後天的な努力型のモノであり、後天的だからこそ誰でも身に着けることが出来る。
ただし、精神が崩壊しなければ――という危険性を孕んだもの。
そんなモノを純也に教える訳にはいかない。
「純也。悪い事は言わない。普通に、神社庁や陰陽庁の連中から戦闘訓練を受けた方がいい。今でもギリギリなんだろう?」
俺は、純也の体中の痣を見て語りかける。
純也は、足運びなどは多少マシにはなっているが、マシになっている程度のレベルだ。
正直、修行を開始してからの時間が短すぎて、まだ身についていないというのが目に見えて分かる。
つまり、修練不足。
「俺に頼るよりも、東雲から強くなる方法を習った方がいいぞ? アディールも、純也よりは数倍は強かったからな」
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