第331話
――翌日。
「お兄ちゃん、行ってきます!」
「おう、気を付けてな。エリカ、頼んだぞ」
「任せておく」
妹と一緒に中学へと向かうエリカを見送ったあと、俺は白亜と一緒に家を出る。
「それでは、御主人様。妾も陰ながら護衛の為に――」
「ああ、任せた」
都に気づかれずに護衛する為に、白亜は彼女の元へと向かう為、目の前から姿を消す。
話によれば風と同じ速度で移動できる神術らしいが、妖狐としての位が上がったことで、多芸になったようだ。
「――さて」
公団の敷地から出たところで、見知った人物が電柱に背を預けて、俺の方を見てきている事に気が付いた。
思わず無言になる俺。
「何だよ? 何か、話せばいいじゃないか」
「――いや、さすがにボコボコにした友人に対して、どう言葉をかけていいのか分からなくてな……」
「うぐっ――」
どう会話をしていいのか戸惑っていたところで、渡りに船と言った感じで、純也が、会話の糸口を作ってくれたのは感謝するべきか。
「それにしても……」
俺は純也の体中に出来ている痣を見て眉間に皺を寄せる。
とくに腕の部分に至っては内出血まで確認できるレベルだ。
「ずいぶんと手酷くやられているな? かなりきつい修行をしているのか?」
「……少しいいか?」
俺の問いかけに返してきた言葉は、短く端的なもので――、それでも喧嘩別れの俺を頼って来たという事は、切羽詰まっているのだろう。
「分かった。それより、お前、学校大丈夫なのか? 一学期中間考査もあるだろうに」
「俺は大丈夫だ」
「そっか」
どちらともなく、俺は純也と共に歩き出す。
しばらくアスファルトの上を歩くと石畳へと代わり、その石畳を歩いていくと階段が見えてきた。
40段ほどの階段を上がると、茶屋が左手に見えてくる。
俺と純也は、一言も話すことなく千葉城の入り口前の土を固めただけの駐車場前に辿り着く。
そこは早朝と言う事もあり、人通りどころか人影も一切ない。
「――で、純也。俺のところに来たってことは、リベンジマッチってことか?」
「――いや」
頭を左右にふる純也。
「そうか……。つまり、何か別のことを俺に聞きたいってことか」
俺の問いかけに、数秒沈黙したあと純也が口を開く。
「優斗、神社庁から優秀な人間を引き抜いたと問題になっていることを知っているか?」
「優秀な人間?」
心当たりはあるが――、
「アディールという小さな女の子で避難民だそうだ。次期、神薙候補として育てられていたと聞いた」
「そっか」
「知っているのか?」
「まぁな」
「もしかして、さっき優斗の家から胡桃ちゃんと一緒に出てきた子か?」
「そうだが――、それが純也に何の関係があるんだ?」
「東雲さんが言っていたが、優斗の神社庁内での立場は、かなり難しい状況に立たされていると言っていた」
「そうか。――で?」
「俺が口を出すことじゃないと思うが、神社庁の上の人間には許可を取った方がいいんじゃないのか? 警察組織よりも強い権力を持っているというのは、最近、知ったことだし」
「別に、エリカが勝手にしたことだ。俺には関係ないし、神社庁に許可を取る必要性すらない。だから、純也が気にすることはない。話は、それだけか?」
俺の言葉に純也は――、
「優斗、頼みがある」
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