最強の英雄は幼馴染を守りたい

第329話

　オンライン学力テストが終わり、採点結果を待っている間、俺はスマートフォンで購入する一軒家を調べていた。

「桂木警視監」

「どうした？」

　とても真剣な声と表情で、俺の机の前に立つ神谷。

その手にはプリントアウトしたであろう書類を手に持っている。

「採点が終わりました」

「そうか。――で、どうだった？」

「……理科と数学については満点です」

「ふっ、だろうな……」

　何せ、俺の戦闘技能は科学に基づいている。

　そちらの知識が無かったら話にならない。

「ただ……英語と国語と社会は……、30点です」

「なるほど……。まぁまぁだな……。赤点ギリギリと言ったところか」

　多少、勉強した甲斐があったというものだ。

「あの桂木警視監、3科目合わせて30点なのですが……。しかも、これは高校入試レベルの平均的な学力テストになりますので……」

「…………つまり、何が言いたいのかね？　神谷君」

「次の1学期中間考査は、1週間後でしたっけ？」

「うむ！」

「…………桂木警視監。人は、戦略上の撤退という言葉を使う時もあります」

「つまり、それは――」

「赤点になります。間違いなく――」

「……はぁ。大体の予想通りだな」

「絶対に予想通りではありませんでしたよね？　自信持っていましたよね？」

「そ、そんなことないぞ？　まぁ、あれだ！　だからこそ！　一週間以内に！　高校の中間考査を突破できるだけの点数が必要なる！」

「無理だから諦めた方がいいと思います。だいたい、国語の方ですが、【この文章を書いた時の作者の気持ちを書きなさい】と、書いてありますが、その答えが【そんなのは作者に聞け】と、言う答えはどういうつもりなのですか？」

「決まっているだろう？　文章を書いた奴の気持ちなんか、文章を書いた奴しか知らないんだから、作者に聞くのが正解だろうに。第三者が、作者の気持ちが分かる訳がないだろう？」

　まったく、少しは理論的に考えて欲しいモノだ。

「……これは」

「どうした？」

「この状態で、一応は進学校の千葉県立山王高校の中間考査で馬鹿ではない点数を取るつもりなのですか？」

「馬鹿は余計だが……」

　額に指先を当てる神谷は、どこか苦悶の表情を浮かべている。

「分かりました。一応、それなりのお金が必要になりますが、その道のプロを用意しておきます」

「それは勉強をする上で何かコツを教えるのが上手い人間を手配するという事か？」

「――いえ。教育委員会と文部科学省に話を通して、点数の水増しを――」

「神谷」

「何でしょうか？」

「俺は、自分の実力で戦うと言っているんだぞ？」

「くすっ――」

「――お、おい！　今、笑わなかったか？」

「――いえ。少し、しゃっくりが出ただけです。それよりも、本気ですか？　私としては、今、提案した内容が最善策だと思っていますが……」

「分かってないな、神谷。真正面から戦いを挑む！　それこそが戦士の在り方だろう？」

「そして砕け散るのですね。わかります」

「砕け散らないように、勉強をするのだろう？」

「……はぁ。――も、もう……わ、分かりました。それでは大学教授を手配しておきます。おそらく無駄になると思いますが……」

「無駄って……、俺だって本気を出せば出来る子だからな」