第328話

 ――千葉県警察本部の一室。


「もう夜だと言うのに良いのですか?」

「ああ。全てはシナリオ通りだ」

「何のシナリオですか……」


 神谷に電話したあと、タクシーを捕まえて千葉県警察本部に到着した俺は、帰宅しようとしていた神谷を捕まえて、現在、二人で会議をしていた。


「私としては、ただでさえ残業続きなのに、早く帰って休みたいのですが?」

「まぁ、待ちたまえ」

「はぁー」

「それで、桂木警視監が警察本部まで足を運んだ理由は、勉強のためでしたか?」

「ああ。じつはは、家族に馬鹿のレッテルを貼られてしまっている」

「納得しました」

「まだ、俺は何も話していないが?」

「つまり、桂木警視監は、馬鹿のレッテルを家族に貼られたから見返してやりたい。だけど、神楽坂都さんや近くの人から勉強を教わるのは、ちっぽけな些細なプライドが許さないから、秘密裏に優秀な講師を欲していると、そういうことですか?」

「……まるで見て来たような言い方をするな……」

「桂木警視監の秘書のような立場ですから、そのくらいは分かっています。それで、桂木警視監のご自宅には、アディール・エリカ・スフォルツェンドさんが、一緒に暮らしていると聞いていますが、彼女から教わるという手は?」

「…………まだ、11歳だぞ……」

「なるほど。つまり、子供に教わるとプライドが許さないと?」

「…………いつになく辛辣だな」

「別に、他意はありません。ただ今日は、予約した大事なディナーが、桂木警視監の馬鹿な頼みのせいで無駄になっただけですから」

 

 ニコリと笑みを向けてくる神谷であったが、その表情は若干、お怒り気味な気がしてならない。


「なあ、神谷」

「何でしょうか?」


 ここは切り札を切らせてもらおう。


「以前に、千葉県警は、俺が東大法学部に行けるように勉強を教えてくれると言ってくれたよな?」

「はい。そうですけど……」

「神谷も優秀なんだろう? どうだ? 俺の勉強を見るというのは……」


 神谷なら年齢的に、俺よりも年上だし、そのそも、俺に勉強を教えるという役目も持っていたはずだ。

 この頼みは断れないだろう。


「そうですね……」


 さすがの神谷も断り難そうな表情をする。


「わかりました。それでは、まずは桂木警視監の現在の学力を確認させて頂いても?」

「確認?」

「はい。ネット上で、オンライン学力テストというのがありますので」

「なるほど……」

「ちなみに、苦手な科目は何でしょうか?」

「そうだな。全体的に、ほんの少しだけ苦手って感じだな」

「全体的に少しだけ苦手ですか?」


 再度、聞いてくる神谷の言葉に俺は自信満々に頷く。


「分かりました。それでは高校1年生の去年の全国模試をやってみましょう」

「いいだろう。俺の実力を見てびっくりするなよ?」



 




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