第327話

 もしかしたら、エリカは俺より頭が良いのでは――、いや、さすがに11歳に負けているという可能性は……。


「ふむ。教員免許というのは他人に教えることか?」

「そう。学生に勉強を教えるのには資格が必要」

「エリカちゃん、すごい!」

「教員免許なんて飛び級していれば普通に取れる。問題ない」

「――それって、普通は無理だと胡桃は思うの」

「妾も、寺子屋で童たちに勉学を教えていた時はあったが、そのような資格は、その時は無かったのじゃ」

「え? 白亜さんも、人に勉強を教えていたことがあるの?」

「うむ。こう見えても600年は生きておるからの。実際、見て来たことを語ることくらいは容易なのじゃ」

「胡桃も、学年1位。たぶん、頑張れば私に追いつける」

「学年1位なのは、特待生扱いの為だから……」

「そういえば、胡桃は特待生だと職員会議で聞いた」

「なるほど。さすが、ご主人様の妹。優秀なのじゃな?」


 ……なんだろうか? このハイレベルな話の応酬。

 妹は、一学年300人は居る中学校で学年1位の成績で、エリカは教員免許を持つ飛び級を当たり前と考えていて、白亜も寺子屋で教えていたという。

 

「まぁ、あれだな……」

「ご主人様?」

「マスター?」

「お兄ちゃん?」


 俺は、一度、咳をして3人を見て――、


「人生と言うのは……勉強が全てではないんだぞ?」

「お兄ちゃん……。勉強できないことを正当化しても意味はないの……。真実から目を背けたら駄目なの」

「ご主人様が勉強できないわけが――」

「マスターに出来ないことはない」

「皆、多様性と言う言葉を知っているか? 勉強が出来ないことも多様性の一つなんだぞ?」

「胡桃、そんな多様性聞いたこと無いの……。でも! 大丈夫だよ! お兄ちゃん!」

「そうか。分かってくれるか……」


 どうやら妹は、俺の言葉を否定しつつも理解を示してくれたらしい。

 さすが我が妹。

 

「お兄ちゃんが、馬鹿でも、胡桃はお兄ちゃんの全てにYESだから!」

「――いや、そういう肯定はいらないから。あと、フォローになってないからな」

「わ、妾も! ご主人様が、馬鹿でも問題ないのじゃ!」

「マスター、人には得手不得手がある。マスターが、どんなに勉強が苦手でも、私が教えるから大丈夫」

「さすがにそれは……」


 11歳といえば小学5年生。

 小学5年生に高校1年生の俺が勉強を教わるとか流石に……それは、俺のプライドが……。


「大丈夫。マスター。私は教員免許を持っている」

「妾も、歴史や神代文字は教えられるのじゃ!」

「胡桃も、高校1年の2学期くらいまでなら分かるの!」

「……少し出かけてくる」

「お兄ちゃん?」

「マスター?」

「ご主人様!?」


 俺は、3人の言葉を背中越しに聞きながら、家を出る。

 そしてすぐに神谷へ電話する。


「神谷か?」

「はい。どうかしましたか? 桂木警視監」

「勉強の講師の手配をしてくれないか? 金に糸目はつけない」

「えっと? 何の話です?」


 戸惑った声が、携帯電話越しに聞こえた。






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