第325話

 エリカが、フォローしてくれているが、それはフォローにはなってないぞ? と、俺は心の中で突っ込みを入れておく。

 しばらくして、妹が風呂から出てきたあとは、めかしこんでリビングに姿を見せる。

 中学3年で、薄化粧しているとは……。


「それじゃいくか」


 言いたいことはあったが、あまり遅くなるとホテルのバイキングも閉まるからな。


「お兄ちゃん!」

「どうした?」


 玄関に向かおうとソファーから立ち上がったところで、俺の服の裾を掴んでくる妹は、上目遣いで、何かを期待するような眼差しを向けてくる。

 それを見て、俺は一瞬で察した。


「似合っていると思うぞ?」


 いくら俺でも、先ほどのエリカや白亜とのやり取りを無駄にするような愚行は犯さない。

 

「えへへっ。お嫁に貰いたくなっちゃた?」

「――いや、全然」

「もうっ!」


 どうして、妹がそこで怒るのか俺には分からない。

 実の兄妹だと言うのに……。


「ほら、さっさと行くぞ」


 妹の手を取り玄関に向かい、靴を履いたあとは、呼んでいたタクシーに乗り込む。

 タクシーは千葉市中央公園近くのホテル近郊に停車した。

 料金を支払ったあとは、ホテルのレストランへと向かい到着すると、席へ案内される。


「見て見て! お兄ちゃん! いっぱいスイーツあるの!」

「うむ。ご主人様、あれが西洋のスイーツ……」

「スイーツは別腹」


 どうやら、うちの女性陣はスイーツに目が向けられているようだ。

 俺は果物や、ケーキ以外に視線を向ける。

 正直、焼き肉店の食べ放題よりも種類は見劣りするが、今日は妹や女性陣に華を持たせることにしよう。

 席に到着後は、全ての料理を食べ尽くしていく。

 補充されれば、即、胃の中へと。

 流石はホテルのバイキングだけあって、焼き肉店などのバイキングよりも質が遥かに高い。

 一人5000円なだけはある。

 俺が座っている席――、そのテーブルの上に積み重なっていく皿の数。

 

「この鮭のソテーはレベルが高いな」


 俺は鮭のソテーを5人前取ってきて、それらを秒で平らげる。


「お兄ちゃん……。すごい食べるの……」

「さすがはご主人様。皿の枚数が、30枚を超えているのじゃ」

「胡桃、このケーキおいしい」

「あ、本当だ! 美味しいの!」

「うむ。絶品なのじゃ」


 途中から、俺に興味を失った女性陣がスイーツ談話を始めたところで、俺は周囲から向けられている視線に気が付く。

 向けられている視線の殆どは、興味本位といった内容。

 そして、一部からは敵意のようなモノが向けられてきていた。

 もちろん、その敵意の視線を向けてきているのはレストラン関係者。

 まぁ、どう考えても俺が食べている量は、10キロを超えているからな。

 普通は大食いチャンピオンでも6キロ前後が限界なはずなのに、それを大幅に更新しているので、店側からしたら敵と思われても仕方ないだろう。


 ――ただし、まだ腹1分目程度だがな!


 俺は気にせず食事を続ける。

 そんな中、最初にお腹が一杯と手を止めたのはエリカ。


「マスター、もうお腹いっぱいです」

「わたしもー」

「妾も、これだけスイーツを食べれば満足なのじゃ」

「そっか」


 そこで、俺も手を止める。

 まだ腹三分目程度だが、あまり食べてもレストランの方から出入り禁止を喰らう可能性があるからな。

 ここで止めておくのがいいだろう。


 それに妹やエリカや白亜も、ここのレストランのスイーツは堪能したようだし、来れなくなったら困るからな。


「じゃ帰るとするか」


 レジで支払いを済ませ、無事に出禁を受けた俺達は、ホテルを後にした。

 たかが30キロ程度食べた程度で出禁とか酷い話もあったものだ。



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