第324話
「ただいまー」
風呂から上がり、妹が帰宅してくるのを待っていると、玄関の方から声が聞こえてくる。
「おかえり」
「マスター、帰った」
「エリカもお疲れ様」
俺の労いの言葉に、ジーパンとTシャツと言った男装のような恰好をしたエリカが頷く。
「マスター。今日の夕飯は何が食べたい?」
台所の方をチラリと見たエリカが聞いてくるが――、
「今日は、外食を予定しているから、作らなくてもいいぞ」
「そうなの?」
「ああ」
エリカの問いかけに俺は頷く。
そして妹と言えば――、
「外食って、サイゼとか!?」
「いや、食べ放題だな」
「食べ放題……」
「ねえねえ! お兄ちゃん!」
「どうした?」
「胡桃ね! ホテルのバイキングに行ってみたいの!」
「ホテルか……。焼肉とかでも食べ放題しているぞ?」
「ホテルがいいの! スイーツとか、いっぱいあるの! 友達が、よく千葉駅近くのホテルのバイキングはすごいって言っているの! ねーいいでしょ!」
「スイーツ……。胡桃、いいアイデア」
「ご主人様、スイーツというのは、妾も興味があるのじゃ」
どうやら女性陣は、スイーツという言葉に、完全に魅了されてしまったらしい。
まぁ、白亜が女性かどうかは別問題として――。
「仕方ないな……」
「わーい! スイーツなの! 着替えてくるの!」
妹は、脱衣場の方へと向かっていく。
「お兄ちゃん、シャワー浴びるから!」
「あいよ」
どうやら、完璧に身支度を整えたいらしい。
俺だったら作業着のままでもホテルのバイキングに行けるが、そこは男女間の感性の差という奴だろう。
「マスター、服装はきちんとするべき」
「服装と言われてもな……」
俺はジーパンとYシャツだけという、極めて一般的な服装だ。
この恰好のどこが変だというのか。
ホテルと言っても食べ放題に過ぎない場所に、めかしこんで行ってもしかたないだろうに。
疑問を持っている俺に対して、白亜が――、
「エリカ。ホテルで食事というのはTPOというのが大事だということか?」
「そう。胡桃が、スマートフォンの画面に映して見せてきたホテルは、それなりのホテル。服装もきちんとしていった方がいい」
「ふむ、そうであるな……。ならば妾も少し――」
そう呟いた白亜の身体の周りに風が舞い、赤いジャージ姿だった白亜の服装が一瞬にして白い生地に、薄紫のアサガオの柄が描かれている着物へと変化する。
「これで問題はないと思うのじゃが……、御主人様、どうじゃ?」
「どうと言われても……」
客観的に見れば、狐耳と狐の尻尾さえなければ見た目だけは白亜は絶世の美女なんだがな……。
「エリカは、この服装で問題ないと思うかの?」
「問題ない。私も着替えてくる」
胡桃が風呂に入っている間に、エリカも着替え終わったのか、両親の部屋だった場所から出てくる。
その服の色合いは白をべースとしたワンピースに、赤い花の刺繍が施されたもので――、
「マスター、どう?」
「何だか、高そうなワンピースだな……」
普通に、率直な意見を述べる。
そんな俺が選択した言葉が間違っているのか、肩を落とすエリカと、小さく溜息をつく白亜。
「――な、何だ? 俺、何か間違ったか?」
「ご主人様は、もう少し女心というのを理解した方がいいのじゃ」
「そうは言われても、俺は男だからな……」
「……ご主人様は、戦闘以外に関してはからっきしなのだ……」
「大丈夫。マスターの態度は想定内」
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