第317話
千葉ポートタワー近くのビーチで、都の父親である修二と別れてから、俺が自宅のある公団住宅の敷地内に足を踏み入れたのは一時間後。
「もうすぐ、午後7時か……」
時計を確認しつつ、俺は思ったよりも時間を使っていたことに溜息をつく。
「最近、まともに自宅に帰ってない気がするな……ただいまー」
自宅のドアの鍵を開けて中に入れば、そこには座って俺を待っている白亜の姿が――、
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「……別に、毎回毎回、玄関で待っていなくてもいいんだぞ?」
「ご主人様のお帰りには、玄関で、このように出迎えるのは、普通なのです」
「そ、そうか……。そんなことをしている家とか見たり、聞いた事もないが……」
「それは、今の女が旦那様を軽んじている証ではありませぬか? 昔は、このように主人を出迎えるのは当たり前だったのです」
そう力説してくる白亜。
「ちなみに昔とはいつの話だ?」
「100年程度前のこと。つい最近になります」
「いや100年は、つい最近じゃないからな」
俺は、座っている白亜の目の前で靴を脱ぎ家へと上がると――、
「マスター、おかえり」
「ああ。ただいま」
廊下を歩いてきたエリカが、おかえりなさいの挨拶をしてくる。
そして、我が妹と言えば、ソファーに寝転がりながら女性雑誌――、ファッション誌だろうか? そんなモノを見ながら――、
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
挨拶してくる。
何と言うか、うちの妹は最近、だらけている気がする。
――というか、少なく見てもエリカと白亜が家に来たばかりだと言うのに、まったく気にしていない感じ、適応能力が高いなと思うが。
「ただいま。胡桃、学校の方はどうだった?」
「どうだったって?」
「何か変なことが起きたりしなかったとか……」
「マスター。変な事は何もなかった。ただ――」
代わりに答えたのはエリカであり、最後の方に何か引っ掛かるようなモノの言い方をする。
そのことが気になるが――、
「何か問題もあったのか?」
「胡桃が、雄から告白されてた」
「なるほど」
たしかに、うちの妹は、俺と血が繋がってはいないんじゃないのか? と、思うほど可愛いからな。
告白の一つや二つや10個くらいはあって仕方ないだろう。
エリカの報告に、雑誌をテーブルの上に勢いよく置いた妹は、ソファーの上に座ると、エリカを睨みつける。
「エリカ! それは言わない約束なの!」
「胡桃、マスターには、きちんと報告し伝える義務が私にはある」
「むー」
「お兄ちゃん! 違うの! 誤解なの!」
「いやいや、俺は気にしてないからな。彼氏が出来ることは仕方のない事だと俺は思っているし」
何だかんだ言いながら妹も中学3年生。
恋の一つや二つはあっても俺は驚いたりはしない。
「ただし、彼氏が出来たら俺に紹介しろよ?」
「紹介するもしないもないから! もう! エリカのせいで、お兄ちゃんに変な誤解されたじゃないの!」
かなりお怒り気味の様子の妹。
さらにエリカの話は続く。
「胡桃、マスターは、胡桃のことが自分の命よりも大事だと言っていた」
「本当に!?」
ガシッ! と、エリカの両肩を掴む妹。
「本当に、私のことを世界一! ううん、宇宙一! 異世界も含めて1番大事だって言っていたの!?」
「そこまでは言っていない」
ヒートアップしていく妹に冷静なツッコミをするエリカ。
「なんじゃ、御主人様。また、あの二人は漫才をしておるのか?」
「そのようだな……」
台所に言っていたのか麦茶の入ったピッチャーを持ってきた白亜が話しかけてくる。
「そういえばご主人様」
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「まだ言っておらぬことがあったのじゃ」
「言ってない事?」
「うむ。お帰りなさいませ、ご主人様。ご飯にする? お風呂にする? それとも妾にする?」
「まずはご飯だな。それと、お前は、その言葉の意味を知って言っているのか?」
「もちろんじゃ! 強い雄と交尾をして稚児を生みたいと思うのは、雌としては当然のことじゃからな」
「はぁー。とりあえず、俺の妹が居る前で、そういう問題のあるような発言は控えてくれ」
「そうかの?」
「そうだぞ。俺の妹は、まだ中学3年なんだぞ? そういう性的な知識とは無縁だからな」
まったく、妹がエリカとの言い合いを止めてキラキラした目でこっちを見て来ているじゃないか。
教育上、よろしくない発言は控えてもらいたいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます