第318話

「ふむ……」と、意味深ありな目で妹の方を見る白亜の頭を掴み力を加えていく。


「イタっ! イタタタタタッ! ご主人様、力を入れすぎなのじゃー!」

「まったく、お前は――」


 溜息をつきながら手を離す。

 そんなアホなことをしていると、エリカが食事をテーブルの上に並べていた。


「今日もエリカが作ったのか?」

「うん。師匠でありマスターの食事を作るのは弟子の役割と見た事ある」

「そ、そうか……」

「そう。それに家族の食事を作るのは女の仕事」

「こ、今度は、妾も作るじゃ!」

「胡桃も作るから!」

「――いや、そこは当番制でいいんじゃないのか?」

「お兄ちゃんは、いいから!」

「うむ。ご主人様は、座っていればいいのだ」

「マスターの食事を作るのは、私の仕事」

「一応、俺も異世界では料理人として、少しの間、働いていたことがあったんだが……」


 冒険者の仕事でも調理場のクエストもあったからな。

 まぁ、余計なことを言う必要もないか。

 夕飯を用意してくれている間に、俺は自室からノートパソコンを持ってくると、ソファーに座り電源を入れる。


「お兄ちゃん、何か探し物なの?」


 隣に座ってきた妹が、身を乗り出すような形で、俺が操作しているノートパソコンの画面を見てくる。


「ああ。白亜やエリカも一緒に暮らすようになったからな。4人だと、さすがに公団住宅だと手狭だし家を買おうと思っている」

「そういえば、お兄ちゃんは高給取りだもんね」

「これは、マスターが私を娶る準備するということ?」

「エリカは、少し落ち着こうか?」


 テーブルの上に、フォークやナイフを並べていたエリカが目を輝かせながら、物騒なフレーズを口にしていたので、一応、注意しておく。

 

「妾は、いつでもバッチこいじゃ!」

「お前は、エリカの手伝いをしていろ」

「しょぼーんなのじゃ……」

「ネットスラングを使う妖狐とか、どうなんだ……」


 思わずツッコミを入れつつ、パソコンで検索をかけていく。

 場所としては、妹が通っている高校から近く駅からも近い場所。

 あとは、それなりに規模の大きい家が好ましい。


「もう少し、大きい家がいいな……」

「大きい家って、お兄ちゃんが見ている家、すごい大きいけど! 価格も、すごいの!」

「ほうほう」


 エリカの手伝いの為に食器を並べていた白亜も気になったのか、ソファーに座っていた俺の横に座る。

 図らずしも、それは妹とは俺を挟んだ反対側で――。


「2億5000万円とな……。中々に高額ではあるのう」

「白亜は、お金の価値を知っているのか?」

「馬鹿にするではない。実際に、妾も小判などを量産して買い物をしていた事があるからのう」

「お前……、それは本物の金を使っていたとしても偽造だからな。二度とするなよ?」

「分かっておる。そのような事くらいは、妹君から聞いておるのじゃ」

「まったく……」

「お兄ちゃん。今って、貯金はいくらくらいあるの?」

「3000億円くらいはあるな」

「――え!?」


 俺の言葉に呆気にとられる妹は口をあんぐりと開いたままフリーズする。

 

「さすがはご主人様なのじゃ」

「マスター、それは日本政府から巻き上げたお金?」

「巻き上げたんじゃない。正当な報酬だ」


「お兄ちゃん!」

「どうした?」

「少し生活費に入れて! 電気、水道光熱費とか、そろそろヤバイから!」

「そういえば、そうだったな……」


 都の父親が言っていた両親が死んだというのが本当なら、両親が失踪してから生活費が振り込まれなくなっていたのは納得ができる。

 それにしても、後見人となっているのなら、きちんと生活費くらい出して欲しいモノだと思うが、その辺は、記憶が欠落している所で、【何か話し合いがあったんだろうな】と推測するだけして妹には確認しない事にする。

 

「分かった。明日、振り込みしておく」

「うん、ありがとう。お兄ちゃん」

「胡桃」

「何?」

「胡桃は、どんな家に住みたいとか、そういう要望はあったりするか?」

「うーん。お兄ちゃんと一緒なら、どこでもいいの!」

「そ、そうか……」

 



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