第315話

「別に構わないが? むしろ、そっちの方が当然と言えるだろう?」


 俺としても、都の父親が話す『俺のような人間とは――』と、言う意見には賛同だ。


「なっ!?」

「何を驚いているんだ?」


 都の父親の方を見ずに、俺は波打ち際を見ながら呟く。


「てっきり君は、神楽坂グループに何か考えてがあったと思っていたのだが……」

「俺がか? それはないな……。そもそも、アンタが言う通り、俺はまともじゃないからな。俺みたいな奴のところに都が来ている方がおかしい。それに――」


 俺は視線を都の親父の方へと向ける。


「アンタの言った事は正しい。だから、俺に都を近づけるな」


 そもそも異世界で、都を見殺しにしたのと同じことをした俺が、都の傍にいた事自体が間違っている。

 俺は都を守りたいだけであって、その結果が憎まれても疎まれてもどうでもいい。

 アイツが生きているだけで、俺にとっては救いだからだ。

 もし、仮に伊邪那美が言ったとおり、俺の近くにいる事で都が事件に巻き込まれているのなら、それこそ、俺から遠ざけた方がいいだろう。


「都が事件に巻き込まれたのは、俺の傍にいたからだからな。だから父親であるアンタの口から都には、俺達、家族には近寄らないように言ってくれればいい」


 渋い表情をしたまま、無言で俺の話を聞く修二から、俺は夕日が沈む水平線へと視線を戻す。


「君は、それでいいのか?」

「ああ。だが一つ、頼みがある」

「頼み?」

「都には、護衛をつけたい」

「それは君がするということか?」

「――いや。俺が契約した妖怪だな。ソイツが、都に何かあった時に守ってくれる。実力は折り紙付きだ」

「……それは、君は娘を護衛はするが、接点は持たないという話から逸れてしまうのではないのか?」

「たしかに、そうかも知れないが、アンタの娘を護衛するのを人間に限定したら守れる者も守れないからな。だから、そこは譲歩してくれ。俺は、今後、一切、直接的には都には関係しないと約束する。それで、アンタの娘との繋がりは無しだ。それで、そっちの要望も満たせるだろう?」

「……どうして、今後、会えない娘に対して、君は護衛をつけるような真似をするんだ?」

「決まっている。俺が守りたいのは都だけだからな。それ以外は、どうでもいい。誰が死のうと世界が滅びようと、俺が死のうとどうでもいいことだ」


 沈む夕日を見ながら、俺は吐き捨てるように都の父親に話す。


「自分が死のうと?」

「ああ」


 俺は短く答える。

 俺の手は血に染まっている。

 それも数人ではなく数千万という命を殺した血にだ……。

 俺は、都を守れなかったから力を求めた。

 そして、その結果、都を殺した連中を――、殺し尽くした。

 まだ、イシスが残っているが、ソイツを殺せば、俺がすることはない。


「都さえ無事なら、あとは、もうどうでもいい。もう疲れた……」


 そう――、もう疲れた。

 どれだけの長い時間、生きてきたのか……。

 どれだけの生きものを殺してきたのか……。

 すでに命を殺すという罪悪感すら、まったく感じていないし、悪いとも思っていない。

 そして、それを訂正することも肯定することも否定することもなく受け入れて生きている。


「俺には、生きている価値なんて無いからな。だから、都の傍にいる資格はない」

「君は……一体……何を……言っているんだ……?」

 






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