第314話
どうして、そのような質問をしてくるのか、俺は思考する。
そして――、いくつか心当たりがある。
何故、都の父親が、そのような話を振ってくるかということを。
おそらくは――、阿倍珠江に関して神谷から話しを聞いた可能性があるということに、俺の思考は思い至るが――、
「どうして、俺に、そんな問いかけをしてくる?」
神谷が、どこまで話したのか事前に確認しておけば良かったな。
まぁ、別に知られても問題ないことだが――。
「君と戦った時に、君は普段からは想像もつかない程に冷徹な目をしていた。そして冷静に、私を見ていた」
「それだけで?」
「私は人を見る目はあるつもりだ。君の目は、私が出会った戦場帰りの兵士と同じ目を――、いや……もっと深く暗い色をしていた」
「なるほど……。それだけか?」
「ああ。だが、伊達に神楽坂グループの会長と代表取締役を兼任している訳ではない。それなりの修羅場を海外の危険地帯で体験しているからこそ、君は普通ではないという事に、久しぶりにあってすぐに気が付いた。だから――」
「俺を挑発して戦ったってことか?」
「そうだ」
「なるほどな……」
俺は、千葉ポートタワーのビーチへと降りる階段に腰を下ろしながら、堤防の方へと視線を向ける。
「否定はしないのだな」
「ああ。否定する必要がないからな。それに神谷からも話は聞いているんだろう?」
都の父親は頷き、口を開く。
「君の話は神谷さんから聞いた。最年少で、警視監に抜擢されたばかりか、名称こそ聞かされなかったが、組織員3000人を超す一つの省庁のトップになっているそうだな」
「まぁ、成り行きってやつだな」
俺は肩を竦めながら応じる。
「正直、俄かには信じられなかったが、岩手県で起きた大規模なインフラに関しての事故に関して、テロリストが関与していたこと。そしてテロリストを一人で殲滅したとも聞いた」
テロリストね……。
まぁ、一般人に妖怪や魔物と言った類のことを説明しても理解はしてくれないし、テロリストと説明した方が理解を得やすいだろうな。
「そして――、君は神の力を手に入れたと」
「概ね、間違ってはいないな」
「肯定するということは、本当ということか? 神の力を手に入れたという世迷言もか?」
「そうだな」
「……冗談で言っている訳ではないのだな?」
「おふざけで話す内容じゃないだろ?」
「つまり、神の力を手に入れた君を日本国政府や警察鎖をつける為に、君に警視監という身分と立場を与えたわけか?」
「ご名答だ」
俺の答えに無言になる都の父親。
しばらく静かに――、数分の時間が経過する。
その間に音となるのは、波がビーチに打ち付ける波音だけ。
「もう一度確認させてほしい。君は、テロリストであっても人間を殺したという事か?」
「ああ――、俺は俺の敵は殺す。そうやって生きてきたからな」
「……そうやって生きて来た? どういう――」
「言葉通りだ」
「…………つまり、君はテロリストであっても人間を殺すことに躊躇することはないということか?」
「ああ。知り合いであっても、俺の敵なら即断で殺す」
俺が守りたいのは都だけだ。
それ以外の人間は――、いや……世界すらどうなってもいい。
俺の返答に溜息をつく修二は、落胆したと言った様子で――、
「分かった。君が、半年間、会わないだけでどうなってしまったのかと言う事が――。君の後見人として、相馬から託されていたが……、私の失策だったようだ」
「相馬?」
「君の父親のことだ」
どうして、俺の父親から、託されていたという話になるんだ?
両親は、連絡がつかないが生存しているはずだ。
「何を言っているのか分からないが、別に後見人をしてもらう必要はないが――」
「君が借りている住宅だが、名義人の保証人は私になっている」
「……」
その言葉に、俺は無言になる。
先ほどから、都の父親と話が噛み合わない。
それは、俺の後見人になっているという話から。
「なるほど……」
そこで、俺はようやく理解する。
俺の記憶には父親と母親という単語は存在しているが、顔も名前も、どういう人物だったかという記憶がすっぽりと抜け落ちている。
それは恐らく戦闘には不必要だとリオネデイラが回収したのだろう。
――となれば……。
「俺の両親は、死んでいるのか……」
「優斗君?」
何の感情も浮かんでこない。
悲しいとも思わない。
ただ、亡くなったという意味だけを理解する。
これが、リオネデイラと契約する前なら違ったかも知れないが、今となっては、もう過ぎてしまったことだ。
「――いや、すまない。少しだけ考え事をしていた」
「……どうして、そんなに他人事のような発言をするんだ?」
「他人事か……」
実際、殆ど記憶に残ってないからな。
他人事どころか、ニュースなどで、車両事故で誰かが死んだと聞かされた程度の考えしか浮かんでこない。
「君は、神の力を得たという事で、人間としての考えを亡くしたのではないのか?」
「さあな。そんな事まで気にされる謂われは、アンタにはない」
俺は座りながら答える。
「分かった。君には、私の面倒は必要ないということか……」
「ああ、必要ないな」
「…………そうか。桂木優斗君」
俺は、日が沈みかける様子を眺めながら、都の父親の真剣になった声に耳を傾ける。
「娘は君に対する後ろめたさを恋と勘違いしている節がある」
「だろうな……」
「だから娘と別れてほしい。君のような人間と娘が関わっているのは親としては、許可できない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます