第309話

「東雲、これは……」

「見ての通り、各国の富裕層の資産状況と、その立場と国家名が記載されています」


 やはり、俺が見たとおり、金持ちリストというところか。

 それよりも……。

 先ほどまでショックで青ざめていた官僚達の様子が、おかしい。


「――こ、このリストは、正規で発表されている富裕層リストではありませよね?」


 そう発言したのは外務省の人間。

 リストを見ただけで正規ではないと判断できるのか……。


「はい。それが何か?」

「それが、何かとは……。このリストの出所は、どこからですか!」

「神社庁の奥の院からですが、それが何か問題なのですか?」

「正規ではないリストを、この場で出す意味を――、東雲さんは理解されていますか?」

「はい。理解しているからこそ出しました。表面上の体裁を整えた資料だけを参考にしても何の参考にもならないでしょう? まぁ、予想はつきますが、それは予想――、推測の域を出ませんから」


 話を聞いている限りでは、東雲は少しばかり非合法な手段でリストを手に入れたという事か。

 それに対して外務省の人間は苛立っていると。

 まぁ、税金が投入されている以上、仕方ないと言えば仕方ないかも知れないが……。


「これから、国家間の綱引きを行う可能性がある『奇跡の病院』の経営について、取り繕っただけの情報は必要ないと、桂木優斗氏のスポンサーでもある神社庁は考えておりますが、荒田氏は問題あると考えておられるのですか? 外務省にも機密費というモノが存在していますよね?」

「それは――」

「正規の手順だけでは、どうもならないという事をご存知なのは外務省の方なのでは?」

「――ッ」


 あれか? 自分達が行うのは良いが、他人が実行するのは許さないみたいな――。

 同族嫌悪ってやつだな、たぶん。


「それではご理解頂けたようですので、話を続けます。各国の資産家のリストを見て頂いたとおり、資産にかなりの偏りがあることは明白です。それは、格差社会と言っても過言ではありません。そこで――」


 一度、言葉を切り俺へと視線を向けてくる東雲に、俺は溜息をつく。


「俺としては、無償で治療を行うような真似をするつもりはない」

「――というと?」


 瀬村経済産業大臣が呟くが――、全員が俺へと視線を向けてきていた。


「俺の力は、臓器の修復、再生、再構築を含めて、この世界では、かなり万能な力だと自負している。そこでだ、金持ちからは多額の治療費を貰う事を考えている」

「具体的には幾らくらいだ?」


 瀬村の問いかけに俺は頷き――、


「資産の2割ってところだな。安いものだろ? 命と天秤にかけたら」

「ちなみに、先ほど、臓器の再構成と言っていたが寿命を延ばすことは可能なのか?」

「東雲から連絡はいっていると思うが、寿命を延ばす行為は自然の摂理に反するから無理だな」

「そうなると2割というのは高いのではないか?」

「貧乏人なんて、金を払えないことだってあるんだぞ?」

「それは、そうだが……」

「まぁ、自分達が死に直面すれば、いくらでも金を出すと思うがな」


 実際、異世界でも回復魔法が使える奴は重宝されていたし、多額の費用で王宮が雇用していたもんだ。


「だが……」

「俺の治療は、完璧に治す。たとえば歯でも全て完全に再生させる。それで資産の2割って言ったら安いものだと思うぞ?」

「……」

「もちろん、税金はキチンと払う。それで問題ないだろ?」

「……持ち帰って検討案件だな」


 瀬村の言葉と共に、外務省と厚生省の役人が揃って頷いた。

 それから、しばらく会話をしワールドビジネスガーデンから出たころには、すっかり日が暮れていた。


「もう21時か……。ずいぶんと話混んでいたな」

「そうですね。それにしても、ずいぶんとふっかけましたね」

「当たり前だ。俺は陰陽庁の運営費を捻出しないといけないからな。しかも年間数千億は最低でも必要だからな」

「そういえば、そうでしたね」

「本当に困ったものだ」


 肩を竦めながら答える。

 




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