第308話

 しばらくしてから話し合いは開始される。


「――では、先ほどの話の続きから始めます。まず桂木優斗氏に関しての情報については、隠すという方向でお願いします」

 

 そう語る東雲に対して――、瀬村が口を開く。


「すでに、諸外国のトップの間では、桂木優斗に関する情報は共有されている」

「ほう。それは、全世界の国々のトップの間には? と、言うことか?」

「先進国では――となるな。ただし、情報が世界各国の発展途上国の国々に出回るのも時間の問題だ。ただし、一般庶民にまで情報は出回ることはない。何せ、君の力は稀有過ぎるし、一人で一国を傾かせるほどの武力があるのなら、世界秩序に関しても問題が出てくる。それに何より……、日本が桂木優斗という武力を保有している事は変わらないからな。一般市民にまで情報が浸透すれば南北朝鮮や、中国にロシアが抗議どころか軍備増強に走ることも考えられる。君の処遇に関しては他国のトップの間でも、すでに慎重を期しているのだ」

「なるほどな……。つまり日本政府としては、色々と大変な状況に置かれているということか?」

「そうなる。だから出来るだけ問題ごとを起こさないでほしい。日本政府は、そのために君に配慮しているのだから」


 やけに日本政府が、俺の話に耳を傾けていると思ったら、そういうことか。

 そして、ある程度の情報は出回っていると思っていたが、思ったよりも広範囲に情報が拡散されていると。


「分かりました。外務省としても、そのように話しは纏まっていますので――。ただ、ロシアと中国が、どこまで此方の意図を汲んでくれるかは分かりませんが……」

「厚生省としては、なるべく多くの国民を治療してもらいたい」


 そう語る南雲には、少し以外だが……。


「何か?」


 俺がジッと南雲を見ていたことに気が付いたのか語り掛けてくる。


「――いや。厚生省が、国民を第一に考えて行動するとは予想外だっただけだ」

「厚生省を叩く輩は多いが、我々だって日本国民である前に、一人の人間だ。苦しんでいる国民を少しでも救いたいと思うのは人間としての常だ」

「なるほど……」

「それと社会保障費が減らせるのは、良い事だと思っている。ただし、財務省が何かと理由をつけて文句を言ってくる可能性はありそうだが……」

「財務省か……。消費税を下げてくれると嬉しいんだがな……」

「その辺りについては桂木優斗氏の頑張りによるが……、正直――、高齢化が進んでいる日本では、これから医療費が掛かる一方だから難しいな」

「お二人とも話が逸れています。それでは桂木優斗氏の素性については基本的に隠す方向でお願いします」


 東雲がぴしゃりと言いきる。


「次に、山王総合病院についてですが、国が現在は管理していますが、桂木優斗氏の名義で譲渡する方向にします」

「それに関しては厚生省としても問題はない」

「それと譲渡金については国が買い上げた際の金額で、購入したいと思っています」

「それでいいのか?」

「はい。ただし、医者や事務員の手配をお願いします。以前に山王総合病院で働いていた人達を再雇用したいと考えておりますので」

「再雇用? ――だが、桂木優斗氏が居る以上、医者は不要ではないのか?」

「いいえ。その点に関しては専門の医療スタッフが必要と、桂木優斗氏は考えておりますので、対応をお願いします」

「……分かった」


 頷く南雲の表情には納得いかなさそうな色が浮かんでいたが。


「次に荒田氏には、諸外国から治療を受ける方々の選別を行って頂きたいと思います」

「選別?」

「はい。こちらの資料をご覧ください」


 東雲が取り出した資料を配り出す。

 そこには、国の名前と、人物名と役職と資産状況が書かれていた。




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