第307話
「そう見えるか?」
「はい」
「こちらの情報は既にそちらで確認済みなんだろう? わざわざ確認するかのような言い回しはどうかと思うがな」
指を組みながら南雲という男を見る。
「いえいえ。率直な感想でしたので、気分を害してしまったら、申し訳ありません」
「まぁいい」
ゴタゴタするのは別に構わないが、余計な手間をかけて遅く帰宅したら妹に余計な心配をかけるかも知れないからな。
「東雲、話を進めてくれ」
「分かりました」
こういう時は、事務担当の人間に主導権を渡してしまった方が早い。
俺の意向は、すでに東雲に伝えてあるからな。
「それでは、私がこの場を取り仕切らせて頂きます。それで、宜しいでしょうか? 瀬村大臣」
「うむ。私としても早めに決めて頂くことは望むところだからな」
「分かりました。私は神社庁の奥の院で事務次官を務めます東雲(しののめ) 柚木(ゆずき)と言います。今回、お集まりいただきました厚生省からの南雲宗助氏と、外務省から派遣されました荒田凛さん。待たせてしまい申し訳なく思っております」
「――コホン! ま、まぁ……私も棘のあるような言い回しをしてしまった事は悪かったと思っている」
東雲の切り口に、ばつの悪そうな表情で自身の言葉を訂正する南雲宗助。
どうやら、東雲を気に入ったようだが……、東雲は、かなりの狸だぞ? と、俺は心の中で突っ込みながら黙ることにする。
「ありがとうございます。それでは、今回、桂木優斗氏の資料については目を通して頂いていると思いますが――」
その言葉に3人とも頷く。
「実際に、岩手県警察本部で官房長官に何度も死を味合わせたというのは聞いているし、動画も確認している」
その瀬村の言葉に、苦笑いを見せる外務省と厚生省から派遣されてきた二人。
そして、チラッと俺を見てくる東雲。
「そうですか……。良い意味でも、悪い意味でもデモンストレーションに一役買っているのは、如何なモノかと思いますが、ご理解頂けたことは幸いです」
「東雲さん」
そこで声を上げたのは厚生省から派遣されてきていた南雲宗助であり――、
「何でしょうか?」
「桂木優斗氏は、肉体の細胞を修復すると資料には書かれていましたが、どこまでの事が出来るのか内容を教えて頂きたい」
「南雲氏は、奇跡の病院についての資料には目を通されましたか?」
「ああ。目を通したが――」
「それが全てです」
東雲の言葉に、カバンからタウンページほどの資料を取り出し会議机の上に置く南雲は口を開く。
「山王総合病院には、ステージⅣの末期患者ですら、一夜に退院したと――、四肢を失ったばかりか、意識が無かった患者すら完治したと書かれているが……、これは実際に本当なのか?」
「はい。間違いありません」
「……」
即答する東雲に、無言になる厚生省の役人。
「はぁー」
「桂木氏?」
「実際、見た方が早いだろ」
椅子から立ち上がり、俺は右手を手刀の形にして、自身の左腕を斬り落とす。
鮮血が絨毯の上に広がっていく。
「――なあっ!?」
「きゃああああああっ!」
「驚きすぎだ」
肉体操作し、瞬時に腕を生やす。
その様子を見ていた南雲が、口元を抑えて部屋から走って出ていく。
荒田は、失神したようだ。
「桂木さん、やりすぎです」
「そうか? 実際に目の前で見た方が早いだろう?」
「普通の人は、腕が斬られるような場面や、神経や骨が再生していくような場面を見たら一生もののトラウマになりますから。耐えられたのは、瀬村大臣くらいなものです」
「――いや、気絶しているぞ」
「……はぁ。コレが国のトップの一人とは……」
「ふっ。神社庁の人間も、常識から少し外れているみたいだな」
「桂木さんにだけは言われたくありません」
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