第306話

 千葉県警察本部の建物入口を出て敷地外に出たところで――、


「お待たせしました、電話をとお伝えいたしましたが――」

「態々、待たせるのもなんだからな」


 言葉を返しながら、千葉県警本部の敷地から出たところで、警備をしていた警察官が敬礼をしてくる。

 どうやら、俺の顔は覚えられたと――。


「それにしても、東雲は警察官に何も言われないんだな」

「警察とは、良好とは言えない関係ですが、心霊現象に関しては警察と共同作戦を取ることがありますので。そのために何十回か、伺ったことがありますから」

「なるほど……」


 東雲も、顔を覚えられているという事か。

 俺が乗ったあと車はすぐに走り出す。


「それで、どこで会合をする予定なんだ?」


 後部座席に一緒に乗った東雲に問いかける。

 彼女は、タブレットを操作し、俺へと画面を見せてくる。


「ワールドビジネスガーデンか……」

「ホテルでも良かったのですが、外務省がどうしてもと――」

「どうしてもね……」

「何か?」

「――いや、会合の場というのは狙われやすいからな」

「流石に、そんなことはないかと。桂木優斗さんを狙うような組織は、日本国内には反政府以外はありませんし」


 その反政府の方が問題なんじゃないのか?

 まぁ、俺には関係の無いことだがな。

 



 ワールドビジネスガーデン前に車が到着したあとは、東雲の案内で、建物内に入りエレベータ―に乗り、目的の階下へと移動する。

 到着したあとは、エレベータ―から降り、カードセキュリティがある入口からオフィスへと足を踏み入れた。


「これは……」


 オフィス内の広さは、30畳ほどで、会議机とパイプ椅子が並べられているだけの部屋。

 そして、そんな部屋には、スーツを着た男が3人居り――、


「待っていましたよ、東雲さん」

「お待たせしました。瀬村経済産業大臣殿」

「いえいえ。こちらとしても、今回の案件は諸外国との取引に利用できると考えておりますので、願ったり叶ったりと言ったところですので。それで、こちらは、荒田(あらた) 凛(りん)参事官になります」

「初めまして、桂木優斗さん。荒田凛と言います。河野外務大臣から、交渉を任されました。よろしくお願い致します」


 礼儀正しく、自己紹介してくる女性。

 身嗜みもシッカリとしていて、第一印象は悪くはない。


「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。桂木優斗だ。役職は――」

「警視監ですね」


 荒田との会話に割って入ってきたのは、もう一人の人物。

 身長は180センチ前後で猫背と言った感じで、どこか神経質そうに見える。


「私は、南雲宗助と言います。厚生省で役職は参事官です。話しは宮本厚生労働大臣から伺っております。それにしても、ずいぶんとお若いですね」


 小馬鹿にしたような笑みを俺へと向けてくる男――南雲。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る