第305話

 近づき、都の父親の容態をチェックしていくが――、


「肋骨が6本と、壁に激突した時に右腕が折れたくらいだな。命に別状はないから軽傷ってところだな」

「……え?」


 都が呆然として――、


「桂木警視監、それは重症と言いますが……」


 神谷が、ツッコミを入れてくる。


「そうか?」

「はい。普通は、重症です。それと折れた肋骨は、内臓などには?」

「刺さってはいないな」

「まったく脆いな……」


 都の父親の身体に手を当てながら、遺伝子と細胞を解析していく。

 そこで、俺は解析を止め都の方を見る。


「どうしたの? 優斗。お父さんは、大丈夫なの?」

「ああ。大丈夫だ。この程度なら10秒もあれば治せる」


 思わず都の方を俺は見ていた。

 何故なら、遺伝子配列の一部が親子だったとしても、都と修二では異なっていたからだ。


「良かった……」


 都の安堵の溜息。


「都」

「――どうしたの?」

「――いや、何でもない」


 余計な考えか――、俺は都の父親の細胞と遺伝子を解析し追え、肉体を修復する。


「これで大丈夫だ」


 都の父親である修二の傍から離れたあと、道場の壁まで移動したところで、壁に背中を預けながら思考する。


「桂木警視監、どうかなさいましたか?」


 俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、父親の傍に座っていた都には聞こえないくらいの小声で話しかけてくる神谷。


「神谷。神楽坂親子に関しては、調査はしたのか?」

「調査ですか? それは、親子関係ということで宜しいでしょうか?」


 俺は頷く。


「神楽坂親子に関しましては、公的資料が存在しておりましたので、目を通していますが不審な点は見られませんでした。それが何か?」

「プライバシーないな」

「桂木警視監は、日本国の最重要機密として位置づけられていますので交友関係に関しては、宮内庁ほどではありませんが、調査が入っていますので」

「そうか」

「親子関係――、血縁関係に関しても、問題はないようですが――」

「つまり、実の親子ってことか?」

「はい。何か、不審な点でもあったのですか?」

「――いや。何でもない」


 どういうことだ? 明らかに遺伝子構成が、神楽坂修二とは――、異なる部分があった。

 身体強化を都に施した時には気が付かなかったが、それは比較対象がなかったのが原因だったが……。

 いまは比較対象の遺伝子配列の設計図がある。

 それは明らかに、地球人とは異なる。


「そうですか。それよりも神楽坂修二氏を診療室まで運んだ方が宜しいかと思いますが――」

「そうだな……」


 まだ目を覚ますまで時間はあるだろうし。

 

「都」

「どうしたの? 優斗」

「修二さんを診療室まで運んで休ませる」

「怪我は治ったのよね?」

「ああ。だが、目を覚ますまで時間があるからな。ずっと畳の上に寝かせておくわけにはいかないだろ?」

「――う、うん」


 都の父親を抱き上げたあと、警察本部の診療室まで連れていきベッドに寝かせた所で携帯が鳴る。


「優斗、電話だよ?」


 都が俺の上着の中に入っていた携帯を取り出し渡してくる。


「桂木だ」

「東雲です。今は、どちらにいらっしゃいますか?」

「警察本部だ」

「分かりました。それでは迎えに伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」

「分かった」

「それでは、20分ほどで伺えると思いますので、到着致しましたら、連絡致します」


 そこで、東雲からの電話が切れる。


「優斗?」

「悪いな。俺は、これから用事があるから――。神谷、あとのことは任せていいか?」

「分かりました。それで、どの程度の内容を開示致しましょうか?」

「開示?」

「はい。さすがに、桂木警視監が不在の状態で、神楽坂修二氏が目を覚ました時に誰も状況を説明できないのは、問題がありますので」


 たしかにな……。


「神楽坂修二には、俺の警察内部における立場と、日本政府との関係性を説明してくれ。もちろん口止めをした上でな」

「分かりました」

「都は、神谷の話を聞いているだけでいいからな」

「――え? 私が説明した方が……」

「実の娘からの説明だと、誤解されそうだから、神谷に任せてくれ」

「う、うん……。それより、優斗」

「どうした?」

「本当に、何も言わずに出ていくの?」

「本当も何も、先方を待たせているからな。何かあったら、俺の携帯に電話してくれ」

「うん……」


 都は不満そうだが、相手の方が先約だからな。

 それに、別に都の父親にどう思われようと、どうでもいい事だし。



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