第302話

「ずいぶんなイメチェンだね。桂木優斗君」

「褒めても何もでないぞ?」

「お父さんっ!」

「都、年長者を小馬鹿にするような態度をするような若者の考えを改めさせるのは大人の仕事なんだよ……クククッ」

「お父さんの悪い部分が……優斗……」

「年長者か……」


 たがか50年も生きてない小僧の分際で、この俺様に喧嘩を売るとは――。


「優斗?」

「――いや、ここは俺も全力でボコッてやろうと思っているだけだ」

「お父さんが死んじゃう!?」


 頭を抱える都を見ながらも、きちんと手加減するから問題ないと心の中ではツッコミを入れておく。


「いつも、優斗が引き下がっていたから何もなかったのに……、どうしてこんなことに……。お父さんっ! 優斗と戦ったら駄目だよ!」

「都。お父さんの眼鏡に叶わない男のところに娘を嫁がせる訳にはいかないのだ! それと、都。さっきから、まるでお父さんが、軟弱な優斗君に負けるように思われているようだが、そんなことはないから安心しなさい。いつも通りボコボコにしてやるから」

「お父さんがキレてる!?」

「ほう。この俺様をボコるだと? いい度胸だ。三下の分際で」

「良かろう! そこまで言うのなら、空手で勝負だ!」

「ええーっ! 優斗!」


 俺を見てくる都。


「大丈夫だ。手加減はする」

「それでは、後日、私の知りあいの道場を借りる」

「――いや必要ない。俺が手配しよう」


 すぐに神谷へと連絡をする。


「桂木警視監。神社庁の方から連絡が欲しいと、電話が何度かありました」

「あー、そのへんは東雲が直接、こっちに来たから話しておいた」

「そうですか。それは良かったです。それでは失礼しま――」

「待て! 今回は、神社庁は関係ない。それよりも、頼みがある」

「頼みとは?」

「道場を少しの間、利用できるように手配しておいてくれ」

「修繕が終わったばかりですけど……。そもそも桂木警視監が、道場を利用する意味が分からないのですが……」

「ちょっと所要でな」

「……また壊さないでくださいね」

「まるで俺が何でも破壊するような言い方をするのは止めてもらおうか」

「鏡を見てから話してください」


 最近、神谷の俺に対する発言が辛辣になってきてる件について。


「はぁー」


 溜息交じりに俺は電話を切り、都の父親である修二へと視線を向ける。


「道場の予約はできた。すぐに移動するぞ」

「優斗、道場ってどこ?」

「千葉県警察本部の地下だ。場所は、俺が案内する」

「千葉県警察本部? 都、桂木優斗君は何を言っているのだ?」

「お父さん、行けば分かるから……」

「そ、そうか……。相馬には警察関係者に知り合いがいるとは聞いていなかったが……」


 すぐに都の父親が運転する車で移動する。

 20分弱で、千葉県警察本部入口に到着したところで、2人の警察官と、神谷が近づいてくる。

 いち早く車から降りる。


「桂木警視監、お疲れ様です」


 神谷を含む警察官たちが啓礼を向けてくる。


「すまないな。神谷」

「本当です。突然、道場を空けてほしいなんて――。それに一般人の方も同行されているとは聞いていません」

「言ってないからな」

「おひとりは、たしか神楽坂都さんですね。もう一人は、神楽坂修二さんですか」

「知っているのか?」

「はい。身柄を護衛する際にホテルに匿う際に、連絡を入れましたから」

「なるほどな」

「ただ、超常現象についての話はしていません」

「そうか」


 俺と神谷が会話をしている間に、車を移動し終えた修二が、都を供だって近づいてくる。


「ここは千葉県警警察本部だが……、桂木優斗君。君は、ここの人達と随分と親しいようだが、どういう繋がりなんだ?」


 何とも言えない目で俺を見てくる都の父親。

 さすがに回りに警察官が3人いる状態だと軽口は叩けないらしい。


「神楽坂修二さん」

「――ん? その声は……」

「神谷幸奈です。先日は、ご無理をお願いしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや。それよりも娘を暴漢から助けて頂いた方が、千葉県警本部の方とは――」

「正確には私ではなく、現場の者です。連絡をしたのが私だけですので」

「なるほど……。それで、桂木優斗君とは、どのような関係なのですか?」

「桂木優斗さんは、私の上司に当たります」

「上司?」


 神谷の説明に、首を傾げる都の父親。




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