第301話

「――で、これから案内してくれるって事でいいのか?」


 俺は肩を竦めながら、都の親父に語りかけるが――、


「都。あまりにも代わり過ぎではないのか? イメチェンにも限度があるだろうに」


 俺ではなく、都の父親は、自身の娘である都に語り掛けた。


「えっと……、優斗は、色々あって……。――ほ、ほら! お父さん! 高校デビューってあるよね! そんな感じだから!」

「相馬の息子が……、こんな風になるとは――」

「俺の親父は関係なくないか?」

「――いや……何でもない。それより、年長者に対する言葉遣いは、きちんとしなければ就職に響くぞ?」

「就職?」

「そうだ。最近は、勉学が疎かになっていると娘が君の家に泊まって勉強を教えているのだろう? 将来的に、娘が困るような事は困るのだよ。妻の静香も君の事を、気にかけているということを念頭に置いてほしい。まぁ、あまりにも能力的に相応しくないと判断が出来たのなら、相馬との約束を履行することは難しいが――」

「能力的に?」

「――お、お父さん! その話は!」

「都。神楽坂家に婿入りする人間は、突出した才覚に優れた者でなければならない。勉強は中の下、運動神経は壊滅的。娘の件があったから相馬との話し合いの結果、仕方なく娘との交際を認めたが、正直言って、私は納得していない」

 

 コイツは何を言っているんだ?

 先に、俺に喧嘩を売ってきておいて、ずいぶんと小馬鹿にしてくれるものだ。


「別に、お前に納得してもらうつもりも必要性も感じない。この俺様の判断基準に、貴様に何か認めてもらう辞書は存在してないな」

「優斗、抑えて抑えて!」

「ほう。ずいぶんと大きく出たな。優斗君。態度のデカさだけは、突出したと言っていいのかも知れないな」

「そうか? 俺は、貴様より遥かに上だと思っているがな」


 何故か、目の前の男を見ているとイライラしてくる。

 おかげでスラスラと言葉が口から出てくること。


「優斗も! お父さんも! どうして会うたびに険悪な雰囲気になるの!」

「都、決まっているだろ。俺に先に喧嘩を売ってきたのは、コイツだからだ」

「ふん。私は、自分よりも弱い者に娘との交際を認めるつもりはない!」


 困った表情で、自身の父親へと視線を向けたあと、俺へと視線を向けてくる都。


「都。桂木優斗君については、ここまで礼儀が出来てない以上、交際を認めるつもりはない」

「それって、優斗が、お父さんより強かったらいいの?」

「何を言っている? この修二、武芸・スポーツともに、それなりに修めているつもりだぞ? 現に、以前に桂木優斗君と戦った時には一方的だったではないか!」

「えっとね……。たぶん、いまの、お父さんが戦ったら優斗の圧勝だと思うの。だよね! 優斗!」


 都が何か言ってきているが、俺は修二と戦った記憶がない。

 ということは、そこまで重要な事ではないということ。


 ――つまり。

 

「俺は雑魚と戦うつもりはないんだが?」


 俺の一言に、こめかみに青筋を立てる都の父親。



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