第300話

 苦行とも言える学校の授業を終えたあと、精神的な何かをゴリゴリ削られた俺は、都と一緒に校門前で、都の父親の神楽坂(かぐらざか)修二(しゅうじ)さんが迎えに来るのを待っていた。


「そういえば、都の父親に会うのは、どのくらいぶりだろ」

「そうだね。優斗が、お父さんに会うのは半年ぶりくらい?」

「そうか」


 正直、都の母親である静香さんと会った事はあるが、修二さんと会った記憶が殆どないというか、まったく覚えていないまである。

 

「優斗って、うちのお父さん苦手だったよね」

「そうなのか?」


 やばいな、全然! 記憶にないな。

 適当に話を合わせておくとするか。

 校門前で、都と会話をしていると、黒塗りのレクサスが停まる。


「――ん? この車は……」

「お父さんの車じゃないよね」

「都の父親って、何の車に乗っているんだ?」

「えっと、黒のベンツ?」

「そっか」


 俺達の前で停まった車を無視していると助手席から、紺色のレディーススーツを着た女性が降りてくると――、


「こんにちは。桂木さん」

「東雲? どうかしたのか? こんな所まで来て」

「今日、神楽坂警視長へ託をお願いしていたのですが、話を聞いた限りでは、すでに連絡は言っていると伺っておりましたが、待っていてもまったく音沙汰がありませんでしたので、直接伺わせて頂きました」

「連絡すればいいんじゃないのか?」

「携帯の電波が届かない範囲とのことでしたので」

「なるほど、だから直接来たってことか。あれ? 住良木は? アイツ、学校に勤めていたよな?」

「それに関しては、アディールを優斗さんが引き抜いたため、そちらに手が取られている状態でして……」

「別に引き抜いたつもりはないんだがな……」

「優斗さんには、そのつもりは無くとも、結果的には、そうなっていますので――」

「そ、そうか……。まぁ、諦めてくれ」

「はぁ……。優斗さん、とりあえずですね。山王総合病院に関しての計画を勧めたいと厚生省と外務省の官僚が、本日の午後に会合を設けたいとの事です」

「厚生省と外務省が?」

「はい。それで、これからお時間は大丈夫ですよね?」

「待ってください!」


 都が、俺と東雲との会話に割って入ってくる。


「彼女は?」

「私は、神楽坂都です! これから、優斗と一緒に家を見にいくんです!」

「なるほど……。彼女が……」


 意味深な目で、俺と都を交互に見てくる東雲。


「分かりました。それでは、会合の時間変更を伝えておきます。時間は、午後9時以降でしたら大丈夫でしょうか?」

「そうだな……。あまり遅くまで家を見ることはないだろうからな」

「それでは、桂木さん。携帯の電源は入れておいてください。後程、連絡致しますので」

「分かった」


 東雲を乗せた車は、すぐに門前から去っていく。

 それと入れ替わりに黒塗りのベンツが停車すると、運転席から身長180センチのイケメンでダンディーなおっさんが出てくる。


「待たせたかい? 愛しのエンジェル!」

「……お父さん。その話し方はやめてっ! って、言っているよね?」

「すまなかったね。それより、そっちは――」


 敵視するような視線で俺を見てくる都の父親。


「たしか、桂木何とか君だったか?」

「桂木優斗だ。俺様の名前くらいは、そのスカスカのスイカの中身をくり抜いたあとの空洞のような頭で、きちんと憶えておけよ?」

「……都。本当に、彼は――」

「う、うん。ちょっとイメチェンしたんだって」

「まるで別人のようにしか見えない」


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