第303話

「神谷。その話はあとでいい。それよりも道場の用意は出来ているのか?」

「はい。それでは、ご案内します」

「――いや、ちょっと待ってくれ。どうして、この場を優斗君が仕切るのかね?」


 その都の父親の言葉に足を止めず警察本部の建物の中へと入っていく神谷。

 自身の問いかけに対する答えが返ってこない事に、若干、不満げな表情を見せながらも、修二は、神谷のあとを付いていくことに決めたようだ。

 大人しく後ろを付いて行ってる。


「優斗」

「どうした? 都」

「ここで良かったの? 私達には、色々と隠していたのに……」

「隠していたというよりも、巻き込みたくなかったからな」

「つまり、お父さんなら巻き込んでもいいと思っているの?」

「都の父親なら、むしろ巻き込むどころか問題事を擦り付けてもいいまで思っている」

「何か、優斗とお父さんって昔から仲が悪いけど、何かあったの?」

「別にないと思うが、強いているのなら話しているだけでもムカムカしてくるって感じだからな」

「それって、お父さんとは話が合わないってこと?」

「どうだろうな……。人間同士の付き合いだと、苦手な人間っているだろ? それと同じだと思っているが……」


 前方を歩く神谷と、都の父親から少し離れた位置で、追っている俺と都は会話を続ける。


「優斗、とりあえずね、お父さんを殺さないでね」

「分かっている。手加減は得意だし、こっちの世界では俺の力で蘇生も可能だからな。死ぬことはない」

「……手加減してね」


 警察本部内を歩き、地下へと続く階段を降りていく。

 そして2分ほど歩いたところで道場に到着する。

 

「それでは、そちらが更衣室になります。一応、道着は用意しておきました」


 神谷が、都の父親に説明をしている。

 俺は、道着の用意については頼んでいなかったが、さすがは神谷と言ったところか。


「それは申し訳ない。道着については、持ってきてあるから大丈夫だ」

「分かりました。それでは更衣室の方についてはご自由にお使いください」

「――では遠慮なく」


 更衣室に入っていく都の父親。

 

「桂木警視監」


 更衣室のドアが閉まったところで、俺の傍まで近づいてきた神谷が話しかけてくる。


「本当に一般人を相手にされるおつもりですか?」

「相手が、それを望んでいるからな。売られた喧嘩は買うのが、俺の趣味じゃなくて俺の主義だからな」

「はぁー。分かりました。怪我人を出した場合には、御自分で治してくださいね。あと、拗れないようにしてください。上が煩く言ってくると困りますので」

「その点は、大丈夫だと思うがな」


 心配性なやつだな。

 俺は道場のドアを開けて靴を脱いでから畳に上がる。

 その後ろを都と神谷が付いてくる。

 しばらくすると、道場に都の父親が道着を着て、道場へと入ってきた。


「待たせたな」

「ほんとだよ。待たせ過ぎだ」

「優斗君は、学生服のままでいいのか? 破けても知らないぞ?」

「破ける事は無いから、安心していい」


 俺の言葉に首と肩を回しながら――、


「以前にも言ったことがあるが、私は大学時代には、全国空手大会で7位になったことがある。手加減はしてやるつもりだが、打撲や打ち身は覚悟して欲しいものだ」


 そう、神谷の父親はのたまってくる。


「そうか。俺も手加減してやるつもりだから全力で掛かってこい」

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