第290話
「肉体的にじゃなくて、精神的に?」
「ああ、やってみるか?」
「師匠っ! ぜひっ!」
「ご主人様、大丈夫なのかの?」
「俺が、しっかりと制御するから大丈夫だ……たぶん……。アディール、とりあえず座ってくれ」
「はい」
屋上のコンクリート上に、正座したアディールの後ろに立ち、彼女の脊髄に手を触れる。
「アディール。まず、身体強化を行うためには、自身の肉体の操作を完璧に行う必要がある。そのために一時的に、お前の肉体と脳の間の接続を遮断する。現実的な体感時間としては10秒ほどだが、精神世界における時間は1か月ほどで設定するから、その間に自身の肉体の操作する方法を見つけてくれ」
「――え?」
「それじゃいくぞ」
俺は、アディールの脊髄に手を触れたまま、全ての――、アディールの脳と肉体――、臓器を含む全ての活動を自動で動かす電気信号を遮断する。
途端、アディールの目から光が消え――、ゆっくりとコンクリートの上に倒れ込む。
「ご主人様っ! これは――」
「大丈夫だ。死ぬことはない」
「違いますっ! 人間が、全ての五感を突然断たれれば、数日もせずに発狂を!」
「静かにしていろ」
アディールの肉体は、徐々に生命活動を低下させていく。
それもそのはずで、筋肉から内臓に至るまで、すべての電気信号のやりとりを遮断したからだ。
「10秒だな」
俺は、アディールの額に手を触れ、全ての神経信号を接合する。
途端に、アディールが身体を震わせ――、
「あああああああああああああっ」
声にならない声を上げ、瞳から涙を零し嗚咽し、必死に自身の身体を掻きむしるかのような行動を取る。
「アディール!」
白亜が、アディールを抱き上げて強く抱きしめ、俺を睨んでくる。
「ご主人様っ! こんなのは――、五感を断たれた上で一ヵ月もの間、暗闇の中で――、肉体の感覚もない状態で自身の肉体の操作を学ぶ修練なぞ、こんなものは――」
「だから言っただろう? 精神が死ぬかも知れないって。どうだ? アディール。少しは、自分の身体の作りを理解出来たか?」
俺の問いかけにアディールは、歯をガチガチと鳴らしている。
「はぁ」
俺は思わず溜息をつく。
「ご主人様!」
「悪いな。覚悟をしていると思って、修練を受けさせたが、そこまででは無かったようでな」
「……し、ししょう……」
「声を発することは出来るか」
「これを克服すれば、師匠のように強くなれ――」
「これはあくまでも準備運動みたいなものだ。まずは自身の肉体の操作、つまり常に100%の力を発揮できるようにすること。これが出来なければ次の段階にはいけない」
「次の……段階……?」
「俺は、身体強化をする際には、肉体の生体電流を操作し、全ての細胞を同時に操り、ミトコンドリアに指示を出し莫大なエネルギーを作ると同時に、体内のエネルギーを循環させる事で膨大なエネルギーを生み出して、肉体の修復と細胞の蘇生と、再生回数を制御している。その上で、細胞を構成する物質を原子レベルで組み替えている。ここまで来て、ようやく俺が使う身体強化になる」
「そんな……ことが……人間に……」
「可能だぞ。今回は、10秒程度で一ヵ月の精神修練をしてもらったが、100億年程度の精神修練をすれば、何とかなる」
俺の説明に唖然とした表情をする二人。
「――で、俺の身体強化を学んでみるか?」
「やめておきます……。こんなのは……、人間が耐えられるモノでは……」
「俺は耐えたんだが……。むしろ、俺が引き戻してやっているんだから、強制的に修練に叩き落された俺よりは難易度は遥かに低いと思うぞ?」
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