第289話

「二人とも、途中で席を外してどうしたんだ?」


 二人と言うよりも、白亜の主導でアディールとリビングを後にしたように見えたが――、


「ご主人様、お二人に説明は出来たのか?」

「まぁな」


 やはりというか、都と妹に遠慮して席を外したらしいな。


「師匠。二人には、本当のことは話した?」

「――いや、全てではないな」


 俺は、肩を竦める。

 まぁ、二人にも本当のことを伝えるつもりはないが、少なくとも白亜とアディールは、俺の力は修練の結果、身に着けたモノだと理解しているから、異世界に召喚された時に得た力という適当な曖昧な説明は必要ないだろう。


「ご主人様。下手な嘘は、自らの首を絞める行為になることを理解された方が宜しいかと思うぞ」

「そうだな」

「――で、ご主人様は異世界に召喚されたという事であったが、そこで力を身につけたとみてよいのかの?」

「まあ、そんな感じだな」

「ふむ。……それにしても、あれだけど圧倒的な力を有しているとなると、ご主人様は、相当な修練を積んだのであるな」

「そうなの? 師匠。師匠の力は修練で手に入れられるのなら、私も師匠と同じ力を得る事が出来る?」

「まぁ、死ぬつもりになれば、身に着けることが出来るかも知れないな」


 俺の言葉に、アディールが目を輝かせるが――、


「アディール、ご主人様の言う修練は生半可なモノではないぞ?」

「そーなの? 師匠。私は、覚悟は出来てる」

「はぁ、仕方ないな」


 アディールに近づく。

「式神が配置されていたから、都と妹に話した内容は、二人とも聞いていたんだろう?」


 俺の問いかけに二人は頷く。

 やはり聞いていたか。

 ベランダの柵に身体を預けるようにして俺は空を見上げながら口を開く。


「異世界に召喚されたというのは本当の話だ」

「ほう……。そこは嘘ではないのだな」

「師匠、異世界というのは本当に存在する?」

「嘘を言う意味がないだろ。――で、俺は異世界に召喚されたが、残念ながら、俺は何の力も得る事は無かった」

「ご主人様。それはつまり、人の身のまま――、素の状態で異世界に召喚されたという事か?」

「そうなるな。――で、俺は魔王軍と戦うことを強要された。何の力もない状態でだぞ? 絶望を通り越して笑いしか出てこないだろ?」

「魔王軍というのは、ご主人様が、山を消し飛ばした時に戦った化け物のことか?」

「そうだな。アイツは魔王軍の序列3位だったから、大した奴ではなかったが――」

「――あ、あれで大した奴ではないと?」


 白亜の驚いた表情に俺は頷く。


「まぁ、最後の方は魔王軍四天王に仕える各魔族の序列1位になっていたから、それなりの力を有していたからな」

「師匠。それでは魔王軍四天王は、どのくらい強い?」

「どのくらいか……。そうだな。魔王軍四天王の力は、ディアモルド――、序列1位の数倍の力を有している」

「あれの数倍……。人間では――」

「まず勝てないな」


 実際、異世界でも魔王軍四天王1匹で、100万人規模の王国が攻め落とされた事もあるからな。


「それでは、ご主人様は、どのように……」

「修行で何とかした」

「どれほどの修練を積んだのは想像に難くないということか」

「師匠、ぜひ! 私にも同じ修行を!」

「普通に死ぬぞ。精神的に――」






 

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