第288話
「うーん。割れないよ?」
「本当?」
都の呟きに、本当? という表情で問いかける妹に対して、頷く都。
そんな様子を見て、俺は内心で首を傾げる。
都の身体強化は、失敗はしてないはずだが……。
「都、少し良いか? 腕を出してくれ」
「――え? う、うん」
「力を入れてくれるか?」
「うん」
脳のリミッターは解除されているのは確認できるし肉体自体も保有している筋肉の限界まで動かそうと信号を脳が流しているのは確認できる。
だが――、実際に腕の筋肉はセーブが掛かってしまっている。
「優斗?」
「――いや。個体差があるみたいだな」
こんな事象、初めてみた。
中途半端に身体強化が出来ているだけで完全に、力が発揮できてない。
異世界人なら、まだ理解はできる。
何せ身体の組織の作りが違うのだから。
そして異世界人には、俺の身体強化は効果がないから、まったく使えない。
「個体差?」
「ああ。どうやら都は、妹よりも身体強化においては苦手というか、そんな感じみたいだな」
「そうなんだ……」
残念そうな都の表情を見ながらも、俺は思う。
まるで異世界人と地球人との特徴を半々持っているようだと。
そんなことはある訳がないというのに。
「それより、お兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんは、この身体強化みたいなのを自分で出来るんだよね?」
「まあな」
「胡桃も慣れれば出来るようになる?」
「それは難しいと思うが」
「――でも、練習すれば出来るようになるよね?」
「どうだろうな……。肉体を操作できるようにするためには、自身の肉体をキチンと操れるようになるのが第一歩だからな」
「きちんと操れるようになる? 胡桃は、自分の身体を普通に動かせるの!」
「――いや、そういう意味じゃなくてだな……。たとえば人差し指を動かす動作一つとっても、どういう電気信号の命令が脳から発せられて、それを神経や筋肉や骨がどう受け取って、どう処理するのかを全て理解し把握した上で脳の信号を制御しなければいけない。本来であるなら、それは無意識に人間の身体が代行しているんだが、それだとセーブが掛かってしまっている状態で、完全に制御下に置けている訳じゃないんだ。だから、まずは自分の肉体の在り方を理解した上で、身体を操れなければいけない」
俺の説明にポカーンとして、妹は見てくる。
「ねえ。優斗」
「どうした? 都」
「それって脳とか筋肉が自動的に行っている機械的な動作を自身の思考だけで、全てを取捨選択して、動かしているってこと?」
「まぁ、そうだな」
ゴクリと唾を呑み込む都は――、
「優斗って、普段から、そんなことをしているの?」
「まぁ、そうだが?」
「――え? どういうこと? 都さん」
「あとで教えてあげる」
疑問を口にした妹に都が、そう呟くと立ち上がりコップとミキサーを手に戻ってくると、
リンゴをミキサーに入れてジュースにしたあと、3人で飲む。
「大体、わかったわ。優斗が、すごいってことは」
「そうか? 分かってくれたならいい」
「それで純也は?」
「アイツは、式神と契約したから、それを使いこなすために修行中らしい」
「そうなんだ……。ねえ、優斗。少しだけ席を外してもらっていい?」
「席を?」
「うん。少し、胡桃ちゃんと話がしたいから」
「分かった。何かあったら携帯に電話してくれ」
俺が話した内容を妹と相談するつもりだろうな。
立ち上がり、俺は家から出ると、波動結界を展開し――、白亜とアディールが居る場所を把握する。
「屋上か……」
公団住宅の屋上へと上がると、そこには柵に身体を預けている二人の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます