第285話

 二人が納得してないのは表情から見ても、不機嫌っぷりから俺ですらすぐに分かったが、俺が気にしてない事で、二人に一々、重荷の用なモノを背負って欲しくはない。

 

「異世界で、勇者として活動した俺は、魔王を倒したあとに、平和的に、この世界に戻ってきた。まあ、強制送還に近いから、いきなり、この世界に戻ってきた時はビックリしたけどな。しかも召喚される前の千葉駅に落ちてきた時には本当に驚いたもんだ」


 俺は、おどけるように説明する。

 それに都が「――あっ!」と、呟き――、


「それで優斗は私に抱き付いてきたの? もしかして、千葉駅で私に抱き付いてきてから雰囲気が代ったのって、勇者として召喚されて、それで戻ってきたからなの?」

「まあ……な」

「――え? 都さんに抱き付いたってどういうことなの!?」

「胡桃ちゃん。落ち着いて」

「落ち着けないの! ほら! お兄ちゃん! 私にも抱き着いてきて! それで、プラマイゼロなの!」

「とりあえず話を続けるぞ!」

「お兄ちゃんったら!」


 妹の催促を蹴り――、


「――で、俺は地球に戻ってきた訳だが、その直後、学校で怪異現象に巻き込まれてな――」

「それで、山城会長が優斗の家に泊まっていたってことなの?」

「――ん? あ、ああ……そうだな」


 神殺しをした記憶は残っているが、山城綾子という人物の情報については完全に欠落している。

 だが、知らないと言えば心配されることだろう。

 話を合わせておく。


「しかし、まさか――、俺が住んでいた地球でも、超常現象があるとは思っても見なかったがな」

「胡桃も、まったく知らなかった……」

「私も……」

「その辺は神社庁や日本政府が上手く隠しているみたいだぞ」

「そうなの?」

「ああ。そうじゃないなら、大問題になっているところだからな」


 俺は続いて神社庁という組織のこと。

 安倍珠江の事や、妹が倒れた病に関しても説明していく。


「私って呪いに罹っていたんだ……」

「だが、もう呪いは消えているから大丈夫だ」

「その神社庁の人って……」

「一応は、さっき説明した住良木とアディールのことだな。アディールに関しては現地に付き添ってくれて手伝ってくれた。俺は、この世界の霊的な事に関しては、まったくと言っていい程疎いからな」

「そうなんだ……」


 妹は、安堵の溜息をつくと、ソファーへ力なく座り込む。


「ねえ。優斗」

「どうした?」

「優斗って、安倍先生を殺したのよね?」

「――ん? あ、ああ。それがどうかしたのか?」

「それって、やっぱり敵だから?」

「それ以外の何物でもないが?」

「そう……。ねえ、優斗」

「ん?」

「優斗は、敵対した相手は、誰でも殺すの?」

「何を当たり前のことを言っているんだ? むしろ殲滅するまであるぞ。後顧の憂いを断つのは戦闘の常識だからな」

「そう……なのね……。それと、優斗。一つ聞きたいの」

「何だ?」

「召喚されたのって一人だけなのよね?」

「ああ。一人だけだが、何かあったのか?」


 どうして、そんなことを聞いてくる?


「他に一緒に召喚された人とかいないわよね?」

「居ないが、何かあるのか?」

「ううん。何でもない」


 都は考える素振りを見せて沈黙する。

 そんな彼女から目を逸らし、俺は懐から身分証明書を取り出す。


「ちなみに、いまは日本政府に一応は雇われている」

「――え? お兄ちゃん。公務員なの?」

「まあな」


 俺が取り出した身分証明書。

 それは警視監の身分を示す物。


「一応、役職は警視監――、警察組織の一人だな」

「そ、それって、もしかして――」


 妹がスマートフォンを取り出し音声検索をしたあと、俺の方を見てくる。


「年収1000万以上!? の、お兄ちゃん!?」

「どういう名称だ。それよりも、まぁ――、そこそこの給料はもらえるはずだ」


 実際のところ、俺の資産は3000億円ほどあるが、それは言わない方が良さそうだな。


「それにしても――」


 俺は妹の方を見る。

 ずいぶんとアッサリと俺の話を信じてくれたものだと思いながら。


「どうしたの? お兄ちゃん」

「――いや。異世界なんて滑稽な話をすんなりと信じてくれた事に驚いただけだ」

「信じるも何も、安倍先生に狙われた時とか、色々なことを実際に見てきたもの。逆に信じない方がおかしいと思うの」

「そうか」

「あと、お兄ちゃんが言うことは、絶対だから! 私は信じてるの!」


 その信頼感が重いな……。

 



 

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