第286話

「私も、優斗の言ったことは信じるよ? それよりも、優斗に、そんな秘密があったなんて……、それをずっと私に隠していたことに、不満があるのよね」

「そうだよ! お兄ちゃん! 私も、お兄ちゃんが、色々抱えていたことに激おこなんだからね!」

「激おこって……いつの時代の言語だ……」


 それって死語だろ。


「それで、お兄ちゃん」

「何だ?」

「お兄ちゃんって、人を殺したから捕まったりしないの?」

「あー」


 やっぱりそこが気になるか。


「ならないな」

「国って、そんなに適当で大丈夫なの?」

「まぁ、国を運営していく以上、全てが正しく動くわけではないからな」


 ――そうか、一般的に見れば俺は殺人者と言う事になるから、法律から見れば俺は逮捕される側になる訳か。

 まぁ、そこを見逃されているのは超法規的措置ってやつなんだろうな。


「胡桃ちゃん。仕事上、仕方ないからじゃないの? ほら? よくある超法規的措置とか……」

「それって、ドラマとかアニメとかの設定じゃなかったの?」

「ほら、機密費みたいな感じだと思うわよ」

「そうなんだ。そういえば、お兄ちゃん」

「どうした?」

「お兄ちゃんが、警察でも上の位なのは分かったけど、お兄ちゃんは異世界で魔法とか、そんなの見てきたんだよね?」

「まあな……」

「もしかして、お兄ちゃんも魔法が使えるの!?」

「無理だな」

「えー」


 心底残念そうな顔になる妹。


「どうして、そこでがっかりするんだ?」

「だって! 魔法が使えたら面白そうだもん!」

「それは、そうよね」


 何か知らんが、俺が人殺しなのを当然のように二人は受け入れたが、本当に良かったのか?

 まぁ、それでいいのなら別にいいが。


「魔法陣とかなら覚えているが、俺には魔法は使えないし、この世界の人間には魔法は使えないと思うぞ」

「そうなの?」


 きょとんとした表情の妹は――、「どうしてなの?」と、首を傾げてくる。


「そうだな。簡単に言えば細胞構成が違うってところだな」

「細胞構成?」

「ああ。この世界の人間は、減数分裂を経て細胞を増やしていくからな。つまり何十兆という細胞で俺達の身体は形作られているんだ。――で、異世界の連中の身体は、俺達とは違って一つの細胞――、簡単に言えば一つの器で作られている。成長する際には、その器自体が成長することになる。そして、一つの器は魔力で満たされていて、その魔力を使うことが魔法として存在していると俺は定義している」

「つまり、地球人と異世界人は身体の作りが違うから、魔法自体が使えないという事なの?」

「そういうことだ」


 まぁ、異世界に正式に召喚された都は、よくは知らんが、そのへん中途半端で魔法は使えたけど、他者からの回復魔法は受け付け難いという特異な存在だったが。

 ちなみに、俺の身体は、まったく! 全然! 回復魔法を受け付けなかったが。


「残念――」

「ほんとね――」

「あれ? でも、そうするとお兄ちゃんって、魔法が使えないのに、どうやって戦っていたの?」


 おっと、ずいぶんと鋭い指摘をしてきたな。


「そうだな。簡単に説明するのなら、この世界の人間だけが使える方法ってところだな」

「え? でも、優斗って勇者の力を持っていたって言ってなかったけ?」


 途中まで説明したところで、都が鋭いツッコミを入れてきた。


「あ、ああ。――そ、そうだな……。勇者としての力は、この世界の力のってやつだな。この世界の人間だけが使える方法って言っただろ?」

「そんな事言ったっけ?」

「おほん。――と、とりあえず話を続けるぞ」


 あまり細かく説明するとボロが出てきてしまうからな。

 さっさと話題を逸らそう。




 

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