第284話
「だから、お兄ちゃんは妹の私にも教えてくれなかったの?」
「そうなる」
俺は神妙な面持ちで頷く。
これで何とか誤魔化せたはず。
「ねえ。お兄ちゃん」
「何だ?」
「お兄ちゃん、異世界に召喚されたんだよね?」
「そうだな……」
「そこで、お兄ちゃんは勇者として戦ったんだよね?」
「ああ……」
どうして、そんなに聞き辛い表情で妹は言葉を発している?
どうして、そんなに遠回しで何かを確認するかのような聞き方をしてくる?
「お兄ちゃん……、お兄ちゃんは、異世界で……人を殺したことはあるの?」
意を決した表情で問いかけてくる妹に俺は――、
「ああ。殺した事はある。それが仕事だったこともあるからな」
「そう……なんだ……」
俯いてしまう妹。
「それって本当なの? 優斗」
「ああ。本当だ」
――だが、全てを話す訳ではない。
少なくとも都が一緒に召喚されたことは知られたくはない。
本当の真実を話す訳にはいかないからだ。
「……異世界に召喚して、人殺しまでさせるなんて……」
「都?」
「ううん。私、本当に何も知らなかったって……、今、初めて理解したから……」
「まぁ、そこまで悲観する内容のことでもない。人殺しなんて日常茶飯事だったからな。すぐに慣れるから何の問題もない」
「何の問題もないって! そんなのおかしいの!」
妹が、ソファーから立ち上がって俺に掴みかかってくる。
「――そ、そんなのは、間違っているの! 人を殺して何の問題もないって――、すぐに慣れるって! だって! 自分達の世界のことだよね! なのに! お兄ちゃんを勝手に召喚して人殺しをさせるなんて……そんなの……」
……俺の妹は、何で怒っているんだ?
「そうだよ! 自分達のことは自分達で何とかするのが筋だよ! 何で、別の世界から召喚した人を生贄みたいに利用するの! 私には信じられない!」
妹に続き、都までもが怒りだす始末。
何で、二人とも、そんなに怒っている?
別に、人間の一人二人コロシタところで何の問題もないだろうに。
それに、俺がコロスのは敵対した連中だ。
そして犯罪者だ。
そして――、人間は殺されて当然の狂った歪んだ救いようの無いゴミのような存在だ。
――だから……何の問題もない。
――そのはずなのに、二人は瞳からポロポロと涙を零して泣いている。
そう――、俺が何気なく二人が気に留めないようにと人間を殺すことは、すぐに慣れると――、問題ないと話した言葉に対して。
「二人共、気にするな。俺は、何も気にしてないからな」
「お兄ちゃん! まだ分からないの! 異世界の人達は、お兄ちゃんに殺人を行わせたんだよ! 一方的に! そんな境遇に、お兄ちゃんは置かれたんだよ! 普通に、怒って当然なの!」
「そうだよ、優斗。ここは胡桃ちゃんの言ったとおりだと思う。優斗は――」
二人の様子に俺は溜息をついてしまう。
「お兄ちゃん?」
「優斗?」
俺は、ワイシャツを掴んでいた妹の手を離しながら――、
「起きてしまった事を悔やんでも仕方ないだろ? もう終わったことだ」
――そう、もう終わった事。
都が殺されたことも、俺が異世界で戦ってきた日々のことも。
「とりあえず話を続けるぞ」
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