第283話

「都さんが来たみたいなの」


 妹が立ち会がり玄関へと向かう。


「ご主人様」

「どうかしたのか? 白亜」


 そう白亜に話しかけたところで、都がリビングに入ってくると――、俺と一瞬、目が合ったあと、すぐに視線を逸らし、白亜とアディールの方へと目線を向けた。


「都さん、座って」

「そうね」


 俺の両隣には、白亜とアディール。

 そしてテーブルを挟むようにして座るのは妹と都。

 重苦しい雰囲気が部屋の中を満たしたところで――、


「師匠。この人は?」

「私は神楽坂都よ。優斗と幼馴染で、同じ学校に通っているの。貴女は?」

「アディール・エリカ・スフォルツェンド。師匠の弟子」

「弟子?」

「そう」


 落ち着いた様子で、アディールの話を受け入れたかのように見える都。


「とりあえずだ。今日、集まってもらったのは他でもない。俺のことを説明したいと思って集まってもらった」

「純也は、いないみたいだけど?」

「純也には、以前に説明してある」

「そう……なのね」


 表情を見せないまま、抑揚の無い声で了承してくる都からは、感情が読み取れない。


「お兄ちゃん。それで、お兄ちゃんの隠し事って何なの?」

「そうだな……。その前に、アディール」

「師匠、どうかした?」

「これから話すことは神社庁には伝えるなよ?」

「分かっている。師匠の秘密は守る」

「――ならいい。そうだな……。何から話すべきか……。簡単に説明すると、俺は異世界に召喚された」

「異世界?」


 妹の疑問に俺は頷く。


「ああ。勇者召喚ってやつだ。そこに俺は、一人召喚された」


 ――都が一緒に召喚されたという事を言ったらダメだ。


「――で、俺は勇者として魔王軍と戦う為に、色々な修行をして力を得て戦っていた訳だ」


 ――本当のことを伝える必要はない。


「異世界では、冒険者ギルドってのがあって、そこで色々なクエストを受注して、お金を稼いで装備を整えたって感じだな」


 ――本当と嘘を混ぜて誤魔化す。


「つまり、ご主人様は、異世界に召喚されて勇者として戦っていたと?」

「そんな感じだな」

「なるほど……。――して、どのくらいの期間を?」

「俺の姿を見て純也や都が違和感を持たなかったのだから、そこまで過酷じゃないさ」


 肩を竦めて俺は答える。

 

 ――本当の事を知られたらいけない。


「なるほどのう」


 白亜は、小さく呟くとアディールの手を掴み立ち上がる。


「ご主人様。少し、アディールと共に席を立つ。二人で近場を見て回ってくるから、お二方に、きちんと説明した方がよい」

「白亜?」

「白亜」

「アディール」

「……分かった。師匠、また――」


 白亜が、短くアディールの名前を呼んだだけで、アディールは溜息をついたかと思うと、白亜と一緒に家から出ていった。


「つまり、お兄ちゃんは異世界で勇者として戦っていたってこと?」

「まぁ、そんな感じだな」

「安倍先生から助けてくれた時に、すごく強かったのも勇者だったから?」

「そうだな……」


 二人の問いかけに俺は頷く。


「異世界って……、まるでライトノベルの主人公みたいだね。もしかして、お兄ちゃんはチート能力とかもらっていたの?」

「……まぁ、そうだな」

「へー。私もチート能力欲しいかも!」

「まぁ、無いに越したことはないぞ? 余計なことに巻き込まれることが多くなるからな」

「余計な事?」

「ああ。安倍珠江とか、胡桃が先日倒れた時みたいに強い力は色々と引き寄せるからな」 


 


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