第282話
「う、うん……」
きちんと説明していないということもあり、妹は頬を膨らませたまま俺を睨みつけてくる。
これは、あとで機嫌を取らないと駄目だな。
「師匠」
「何だ?」
「師匠の部屋はどこ?」
「あーっ、それなら――」
俺は指差すと、アディールは、キャリーバックを持ち上げると、俺の部屋へと向かう為に妹の横を通り過ぎる。
「ちょっと待って!」
妹が、アディールの肩をガシッと掴む。
「どうした? 警護対象」
「私は胡桃! 胡桃って名前があるから! それと、無断で家に上がらないでくれる?」
「どうして?」
「どうしてもこうも! ここは、私とお兄ちゃんの家なの! 他人が無断で上がっていいわけではないの!」
「師匠の許可なら得ている」
「本当なのっ!! お兄ちゃん!!」
「――お、おう……」
思わず、俺は数歩引き下がる。
「少し家族会議するから、アディール・エリカ・すふぉる……」
「エリカでいい。師匠の身内なら、エリカと呼んでいい」
「――ならエリカ! 少し、待っていて! 来て! お兄ちゃん!」
俺の腕を掴むと妹は引っ張り、俺の部屋へと連れ込まれるが――、
「――ん? どうしてお前のベッドが、俺の部屋にあるんだ?」
俺は思わず首を傾げる。
「それはいいの! それより、お兄ちゃん。あの子誰なの?」
「簡単に説明するなら、お前の命の恩人だな。詳しい話は、あとで説明するが、そこまで強く当たるな」
「ムーッ!」
「とにかく、アディールは、父さんと母さんの部屋に泊まらせればいいだろ」
「都さんが戻ってこないなら、それでいいと思うけど……」
どうして、そこで都の話が出てくるのか。
「戻ってくるも何も、都がどうして関係あるんだ?」
アイツが、俺の家にお泊り会で来るというのか?
「――え?」
「何を驚いた顔をしているんだ?」
「だって! 都さん、うちに泊まっていたの」
「都が? お泊り会でもしていたのか?」
「ううん。綾子さんが泊まりに来てたから、それで都さんも――」
「綾子? 誰だ、そいつは……」
「山城綾子さんだよ!」
「山城綾子……」
たしか山王高等学校の生徒会長が、そんな名前だった気がするな……。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ。問題ない」
おそらく山城綾子が、自宅に泊まっていたというのは本当だろう。
妹が、そんな事で嘘をつくはずがない。
――となると考えられるのは……。
書庫の番人リオネデイラに、戦闘以外の経験と知識と言う事で回収されたと見た方が早いか。
「そういえば、そんな事があったな」
とりあえず話を合わせておくことが先決か。
そうなると一度、家の中を見て整合性を付けておいた方がいいな。
「ほんと、お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「あ、ああ。少しボーッとしていた。とりあえずアディールについては、しばらく自宅で寝泊まりする事になると思うから、宜しく頼むというか……」
家を買った方がいいかも知れないな。
「お兄ちゃん?」
「――いや、何でもない。それより都が来るまで、待つとしよう」
「こんにちわー」
そう言いかけたところで、俺の言葉に被せるかのような都の声が聞こえてきた。
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