第六章 姦姦蛇螺編
第281話
自宅のドアを開けたところで、立っている一人の少女は、そんなことを言って来た。
「約束?」
「そう。約束」
アディールと約束したことなんて一つしかない。
それは、俺の身内の護衛と引き換えに約束したこと。
「俺は、数日間は満足に力が振るえないって言っただろ? ロシアの大統領を誘拐なんてして来られないぞ?」
「本当?」
「ああ。本当だ。それに決着は、お前に付けさせるって約束だからな。連れてきたのなら、お前に真っ先に連絡を入れる」
俺の言葉にアディールは考え込むと懐からスマートフォンを取り出し、数秒操作してから俺に画面を見せてくる。
「大国ロシアの首都モスクワ空襲だと……? 昨日の夜か?」
「そう。昨日の夜、ロシアのモスクワが何者かに襲撃にあった。それも広範囲に。死者の数は3万人を超えている。あと大統領は行方不明」
「間違いなく俺じゃないな。邪魔をするならモスクワごと、地図から消しているが、そうでないなら、余計な犠牲は出さないようにしているからな」
「そう。ユートじゃない……」
「それにしても大統領が行方不明か。俺にはよく分からないが、逃げおおせている可能性も考慮に入れると、お前との約束が無くなった訳ではないだろう?」
「うん。でも困った」
「どうした?」
「ユートに弟子入りするってことで、神社庁を抜けた」
「抜けたって……、お前……、一応は避難民として来てる訳だろ? 国元に送還されるんじゃないのか?」
「だから困った。ユート」
「何だ?」
「陰陽連に就職斡旋」
「どうして俺に聞く?」
「陰陽連のトップはユート。つまり面接はユートでいい。私は有能。だけど神社庁には帰れない。何とかして、師匠」
「……仕方ないな。とりあえず陰陽連と言っても俺はトップにいるだけで、組織の運営維持は神谷に任せているから、ソイツの下に付いてくれ。あと給料は――」
「問題ない。神薙候補は年収4000万円は貰っていた。貯金はある」
11歳のガキにしか見えないのに年収4000万円とは……。
「とりあえず雇用する以上、給料は出ると思うが期待するなよ?」
「分かった。仕事の内容はユートの身内の警護でいい?」
「まぁ、そんなところだな」
「分かった」
アディールが、キャリーバックを引いてドアを大きく開けると中に入ってくる。
「――お、おい!」
「ユート?」
「お前、どういうつもりだ?」
「私が調べた限りでは、内弟子は寝食を共にすると聞いた。つまり同棲。一緒に暮らすのは常識。ユートは、内弟子にしてくれると言った」
「そんな事を言った記憶は、無いんだが?」
「大丈夫。言語の行き違いはよくあること。失礼します」
アディールは、キャリーバックの音と共に自宅へと上がり込む。
「ここが師匠の家。狭い」
「ほっとけ!」
「お兄ちゃん! 都さんが来たの?」
トタトタと軽快な足取りで近づいてきた妹が、アディールを見て足を止める。
そして、俺とアディールを交互に見たあと――、
「もしもし警察ですか?」
「ちょっとまてーっ!」
「だって、お兄ちゃんが、とうとう幼女にまで手を出すなんて……、そんなのは妹の私だけにしておいて!」
「お前が何を言っているのか分かったような気がするが分かりたくないな」
「なんじゃ? アディールではないか」
俺と妹の会話に割って入ってくる白亜。
「え? 白亜さん、この幼女と知り合いなんですか?」
「うむ。こやつは神社庁の神薙候補の一人で手練れだぞ」
「神薙? 神社庁? えっと……、つまり、神社関係の人?」
「うむ。その考えで間違ってはおらんの」
「ユート。あの子、もうあそこまで回復したの?」
「まあな」
「すごい……。さすがは師匠」
「お兄ちゃん! 今、師匠って言葉が聞こえたけど……、どういうことなの?」
詰め寄ってくる妹。
「そうだな……、何と言えばいいのか……」
本当は、異世界に召喚された事に関して話をしてから紹介をしたかったんだが……。
「私の名前は、アディール・エリカ・スフォルツェンド。出身国はウクライナ。師匠の身内を警護する役目を仰せつかった。これから寝食共に、宜しく頼む」
「――え? どういうこと? お兄ちゃん」
「……その事については、あとで纏めて説明するから、いまは疑問を横に置いておいてくれ」
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