第279話 神楽坂都(3)
――夢を見た。
辺りは暗く――、体は凍えるほど寒い。
雷雲に覆われた空からは、絶え間なく雨が降り続け、地面にしみ込んだ真っ赤な鮮血を洗い流しているようだった。
「――助けてくれ! 頼むよ!」
そこで私は思い出す。
ああっ――、これは何時も見ている夢の一つに過ぎないということに。
「姫様」
そう私の前に――、雨の中でも跪き傅くようにして、私に語り掛けてくる騎士が居た。
「アーガード」
自分でも信じられないほど冷淡な――、感情をまったく感じさせない声が口から零れる。
「姫様。聖女が死んだ今となっては――」
「分かっているわ」
男の年齢は30代後半。
名前は、アーガード。
甲冑を着ていることから、私を守る護衛騎士だと思う――、何故か分からないけど、それが理解出来てしまっていた。
「それでは――」
立ち上がるアーガードは、腰から剣を抜き『腕』だけになった聖女の亡骸を手にして、必死に――、
「なんでだよ! 必死に! 必死に! 頑張ってきたのに! どうして!」
悲痛な声が聞こえてくる。
その彼の表情は、最初に私達が到着した時のような希望に溢れた表情ではなく――、どうして回復魔法を掛けてくれないのか? と、言う絶望に歪んだ表情へと代わり果てていた。
「お前達が、勝手に召喚したんだろ! なのに!」
「やはり偽物は――、偽物に過ぎませんね。アーガード」
「はっ。悪く思うな。ユート・カツラギ。何の才能もない、勇者でもない、お前自身が悪いのだ」
アーガードという騎士が腰から剣を引き抜くと――、
「どうしてだ! アーガードさん! どうして!」
「召喚された者が、生きている限り、新しい者を召喚することはできないからだ。お前が、頑張っていたことは知っているが、勇者の力を有していない……強者になりえない……、才能の無い人間を生かすことが出来る程――」
腕を大切に抱きかかえ、絶望の表情をしていた少年。
そんな彼に振り下ろされる凶刃の刃。
「この世界は余裕がないのだ」
その言葉と同時に、王国騎士団近衛部隊隊長のアーガードが放った斬撃は、私が見ている前で、彼の体を切り裂いた。
――ジリリリリリリ
時計のベルが鳴り、私は飛び跳ね上がるようにして目を覚ました。
着ていた寝間着は、じっとりの汗が張り付いていて気持ち悪い。
「最悪……。夢の中だったとしても、あんな夢をみてしまうなんて……」
思わず愚痴を呟いてしまう。
私は洗面所に向かい、顔を洗ったあと、携帯電話のランプが点滅していることに気が付く。
そこには、胡桃ちゃんからの連絡で、優斗が話をしたいという内容だった。
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