第278話 神楽坂都(2)
一日、何事もなく過ごした私は駅に向かって一人歩くと連休中に起きたことが思い出される。
「あーあ」
カバンを持ちながらトボトボと歩く。
駅まで思ったよりも遠い。
「普段は、二人と一緒だったからかな……」
そう呟きながら、一人で検見川浜駅に向かって歩く。
時刻は、部活の陸上が無かったから、まだ午後4時過ぎで回りは明るい。
私の周りには、同じ山王高等学校からの学生組が、グループを作って、駅に向かって歩いている。
その様子は、私が連休中に体感した、この世のモノとは思えない出来事とは、掛け離れた様子そのもので……。
まるで、あの日の出来事は夢だったのでは? と、思ってしまう。
昨日、優斗と喧嘩して自宅に戻ったあとのニュースでも、大規模なガス爆発とかで全てが片付けられている事に、私は、唖然としたものだった。
検見川浜駅から電車に乗り、千葉みなと駅で降りたあとは、千葉駅まで千葉都市モノレールに乗り移動する。
その間も、超常的な現象に遭遇したという体感というか衝撃は抜けきらない。
千葉駅に到着したあとは、私は駅前を歩く。
バスに乗る事もなく商店街の方へ。
しばらく歩き信号を渡ったところで、ゲームセンターの前を通り掛かる。
「ゲームセンター」
何気なくふらりと立ち寄るゲームセンターは、午後5時を少し回っていたけど、思ったよりも人は少なく――、私はゲーム機を見て回る中で、一つのゲーム機の前で足を止めた。
「太鼓のプロ――」
一位には、Y.Kの名前が表示されていた。
それは、優斗の名前。
優斗は、ゲームが得意だった。
100円を入れて『太鼓のプロ』を遊ぶ。
運動神経では、優斗に負けたことは一度もなかった。
それどころか優斗は、身体測定でも女子の平均よりも低い数字しか出したことがなかった。
「――なのに……」
私は、『太鼓のプロ』を叩いていた棒を力なく降ろす。
「どうして……」
優斗は、何時の間にか、すごく強い子になっていた。
私が守ってあげないと何も出来なかったのに……。
私が守らないといけないのに。
それなのに……、それなのに……、優斗は、遠くに行ってしまっていて――、今までは一度も喧嘩どころか、口論も言い合いもした事なかったのに……、優斗と私は昨日、喧嘩してしまった。
「どうして……」
優斗が何かを隠しているというのは薄々と気が付いていた。
だから、何時か話してくれると思っていた。
だけど、何時まで待っても――、何時まで経っても、何も話してくれなかった。
「優斗は、私が守らないといけなかったのに……」
罪悪感――。
そういえば、良いのかもしれない。
優斗が虐められるようになったのは、私が原因だったのだから。
――それなのに……、優斗は私の手助けは必要とないみたいに強くなってしまって、それどころか、私が必要ないみたいな態度まで取って……。
「――ッ!」
思わず唇を噛みしめてしまう。
胸を焦がす痛み――、それが何なのかは私には分かった。
これは、贖罪の痛み。
私は、優斗に返さないといけない恩がある……。
「すいませんっ! いいですか?」
後ろから声をかけられた。
振り向けば、話しかけてきたのは同世代の同性の女子高生。
すでに、私がゲームをしていた『太鼓のプロ』は、最低得点をつけて終了していた。
考えている間にゲームが終っていた。
「あ、すいません。どうぞ」
私は、場所を譲り罰が悪い事もあり、ゲームセンターから出る。
京成千葉駅周辺の商店街は、いつも通りの日常で学生や社会人が歩く姿が、本当に本当にいつもどおり。
「ほんと、私って何をしているんだろう」
思わず自問自答してしまう。
何も教えてもらえない。
大切な事は何一つ。
その事に私は、少しずつ苛立ちを覚えてしまうと同時に、寂しさも感じてしまっていた。
私は溜息をつき、そのまま帰路へとついた。
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