第268話
揺られる中で、瞼を開けて見れば、そこは――、
「ご主人様っ、起きられましたか!」
「白亜か……」
「桂木君。起きたの?」
「ユート、起きた」
「そう……」
「ここは……」
欠伸をしながら、車の中を見渡す。
どうやら、俺は、紅が運転する車の中で寝ていたようだ。
「一体、どうなったんだ……? 山の中で寝たところまでは覚えているが……」
「妾が説明するのだ。まずは、神社庁というところと、アディールが連絡をつけたのだ。それで、コトリバコの事件は、どうやら収束したらしい。そうであるな? アディール」
「そう。日本全国で起きていた呪いは、綺麗に消えた。ただ――」
「ただ?」
「クルミ・カツラギに関しては、砕けた手足は元通りになっていない。いまは麻酔で寝かせている。だから、ユートの力で治療する事が大事」
「だから、車に乗せられて移動しているってわけか」
「そう」
車は開けた場所へと到着する。
そこは、見慣れないヘリコプターが止まっている。
「ヘリ?」
コクリと頷くアディール。
「ユート。まだ体力戻ってない。だから神社庁からヘリを手配した。これで千葉まで戻るといい」
「なるほど……」
体力というか力を消費しきった状態だから、どちらにしても治癒も出来ないが、有難ない。
「それじゃ、桂木君」
「ああ、すまないな。紅」
「紅?」
――ん? 俺は、何かおかしなことを言ったか?
「何かあったのか?」
「いいえ。幸子でいいわよ」
「分かった、幸子、世話になったな」
「そうね。後日、登山道具一式、返してくれればいいから」
「……」
俺はアディールの方へと視線を向ける。
アディールは、頷く。
どうやら、登山道具を借りたままというのは、本当らしい。
いくつか記憶が抜け落ちているのは、リオネデイラとの契約の影響だろうな。
「分かった。今度、一緒に買いにいくとしよう。金は出す」
「そう。デートの約束ね」
「そんなんじゃないからな」
「はい、これ名刺」
「あいよ」
俺は名刺を受け取り上着のポケットに入れた後、車から出る。
ヘリまでは、白亜に肩を借りて移動し乗り込む。
白亜、俺、アディールがヘリに乗ったところで、「それでは離陸します」声が聞こえてくる。
しばらく揺れたあと、ヘリは空へと上がっていく。
「ここは何かしらの施設なのか?」
「ここはパラグライダーの施設ですよ」
そう言葉を返してきたのは、俺達がヘリに乗り込んだあと、最後にヘリに乗って扉を閉めてきた男。
「ユート。彼は、神社庁のB級エージェント。今回の連絡要員として、神社庁から派遣されてきていた霊能者」
「そうか」
俺は、欠伸をしながら答える。
まったく疲れが取れていない。
思ったよりも、リオネデイラとの契約のダメージが大きい。
「桂木優斗殿。こちらを――」
男が差し出してくる携帯電話は、俺が住良木から渡されたモノと同じモノ。
「すまないな」
「いえ。神社庁の奥の院、日本政府からも今回の騒動を迅速に解決して頂けたことに関しては、感謝しているとの事です。ただ――」
「表立って評価は出来ないという事か?」
「そうなります」
「まぁ、それでいいんじゃないか?」
「申し訳ありません」
「気にする事はない。そもそも、今回の事件は――」
そこで俺は口を噤む。
女神の復活――、そして魔王軍の暗躍――、それらは俺がケリをつけないといけないことだ。
何より妹が女神の依り代として利用されていたということを神社庁や日本政府に知られるのはよろしくない。
俺が知らないところで監視がつくるのも面倒だからな。
「何か?」
「――いや、何でもない」
全てを話す必要はない。
「……そうですか」
途中で話を区切ったことで、何かしら不審に思ったのか、眉間に皺を寄せて俺を見てくる男を他所に、渡された携帯で俺は神谷に連絡を入れた。
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