第267話

 不快だと感じた瞬間、俺は意識を取り戻し――、瞼を開けた。


「アディールと、白亜か……」

「ご主人様っ!」

「ユート!」


 瞼を開ければ安堵の溜息をつく二人の姿が――、俺は体に力を入れて立ち上がる。

 力を全て使い果たした影響からなのか、立ち上がるにも億劫になるほどであったが、動けないという程ではない。


「二人とも無事だったのか」


 致命的な怪我は見当たらないが、大小様々な怪我が確認できるところから――、


「ディアモルドは、どうした?」


 よく俺達を見逃したものだ……。

 少なくとも、魔族が人間を見逃すような甘いことをするとは限らない。

 そこで俺は、ハッ! と、する。


「まずい! 妹が――」


 数歩歩いたところで、足腰に力が入らなくなり地面に倒れ込む。


「ユート! 落ち着いて! ディアモルドは消滅した」

「どういうことだ?」


 俺は二人の表情を見るが――、アディールの言葉を肯定するかのように白亜が頷く。


「ご主人様が、ディアモルドを倒したのだ」

「そんな馬鹿な……」


 まったく記憶にない。

 力も尽きている状態で、どうやって圧倒的な力の差があるディアモルドを倒せるというのか――。


「嘘じゃない。ユートが、倒した。ユート、白髪に代わって倒した」

「白髪!? 俺が!?」

「そう。ユート、圧倒的な力で倒した」

「うむ。アディールの言う通りだ。コトリバコの呪いも、ご主人様が全て喰らっておった」

「……」


 その二人の言葉に、俺は思わず無言になる。

 心当たりは一つしかない。

 それは――、書庫の番人であるリオネデイラが俺を認識したということだ。


「ユート?」

「――いや、何でもない」


 力を振るったという事は、契約を――、行使したという事に他ならない。

 どれだけのペナルティを払ったかは知らないが……。


「二人共、俺は、どういう風に戦っていた? 見ていたのか?」

「うむ。ご主人様の戦いは見ておった。光の光弾で山を消し飛ばし――、山や木々を再生していた」

「なるほど……」


 俺は思考を巡らす。

 おそらく、俺が放った光の光弾の中で山を消し飛ばす程度で済むのは、魔光閃クラスの技だろう。

 そして木々や山を復活させたということは――。

 1割――、多くて2割程度の力の解放というところだろう。

 それなら、奪われた記憶も少ないはずだ。


「ご主人様?」

「いや――、何でもない」


 アディールや、白亜を覚えてるところからも解放された力は3割には届いていないと見た方がいい。


「それよりも、ディアモルドを倒したのなら――、コトリバコを消し去ったのなら、連絡をした方がいいな」

「連絡とは?」

「――いや。今回の事件は、妹を守るためだったからな」


 俺は肩を竦めたあと懐から携帯電話を取り出すが、携帯電話は粉々になっていた。


「また新しいのを頼む必要があるか」

「ユート。私も携帯がある」

「それなら連絡してくれ。もう一歩も動けない」

「分かった。電波が立ってない」

「おい……。仕方ない――、白亜。アディールを背中に乗せて空を飛んでくれ。それで電波が拾えるだろ」

「分かったのだ。アディール」

「仕方ない」


 狐に変化した背中に乗りアディールは、空へと移動し電波がキャッチできたのか電話をする素振りを見せる。

 それを見て、俺は木に背中を預けながら、襲い掛かってくる睡魔に抗うことが出来ず瞼を閉じた。




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