第266話 第三者side
――暗闇の中に意識が落ちていく中で、俺は手を伸ばす。
それが無駄だと分かっていたとしても――。
「あいつは……」
足掻く。
アイツは――、ディアモルドは、俺の妹を――、胡桃を女神の依り代にすると言っていた。
そして魂を喰らうと――。
「アイツハ……」
そして四肢だけを残すと……。
俺の脳裏に、都の――、俺が守ると誓い守れなかった都の残された体の一部である手を抱いたまま放心した後、絶叫し雨に打たれた光景が思い浮かぶ。
「アイツハ、殺す!」
殺意が、俺の脳裏を埋め尽くしていく。
俺の身内に手を出すやつはどんな手を使ってもコロス。
ソウ――、殺す。
殺してやる。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くしてやる!!!!
憎しみが――怒りが――理性を吹き飛ばすと同時に、俺の視界は真っ赤に染まっていき――、
――桂木優斗、あなたの力の一部を、記憶の感情の受領と共に――。
そう、声が聞こえた瞬間、俺の意識は途切れた。
「くたばったカ――。ゴミが! 邪魔をするからこうなる!」
ディアモルドが、桂木優斗の首を掴んでいた腕を離す。
それでも、岩盤にのめり込んでいた桂木優斗の体がずり落ちることはなく、生気を失った虚ろな眼差しのままの男の遺体が残されたまま。
「――さて」
浮遊魔法で白亜やアディールの元まで移動し音もなく着地したディアモルドは、苦悶に顔を歪める白亜と、意識を辛うじて繋ぎ止めている死に体となったアディールへと順番に向け――、
「とりあえず、まずは、このクズからだな! もうすぐ死ぬやつにはトドメを差して呪物の材料にしないとな! ヒャッハー!」
「やめ――っ」
アディールの頭部目掛けて振り下ろされる大鎌――、そして、それを止めるかのように生き絶え絶えに弱々しい声で制止の言葉を紡ぐ白亜。
だが――、振り下ろされた大鎌は、正確にアディールの頭部へと振り下ろされて――、
「なん……だと……!?」
大鎌は、甲高い音を響かせながらディアモルドの手から弾き飛ばされた。
「一体、ダレガ!」
ディアモルドの視線が向かう先――、そこは桂木優斗が死んだ場所であり、そこには黒いドス黒い瘴気が立ち上っていた。
「――ナンダ……アレハ……」
黒い瘴気は、広がり続け、周囲の土壌を分子レベルで分解し砂塵へと変えていく。
「あれは……一体……」
その様子を倒れて見ていた白亜も瘴気が何か理解できずに、それでも瘴気の周りの生命力が――、存在力が根こそぎ喰い尽くされていく様を見て、その異様さから唾を呑み込んだ。
「あの人間カ? いや――、奴はコロシタ……生命活動は止まっていた。なら――」
誰もが注視する中、瘴気の中から姿を見せたのは、白髪の男。
顔つきこそ桂木優斗の面影を残してはいたが――、瞳には何も映しておらず、体つきも身長160センチから180センチまで伸びており、鍛え抜かれた筋肉を晒していた。
男は空中を歩きながら、白亜たちの元へと向かってくる。
「何だ! 貴様はッ!」
理解できない相手に対して、一瞬にして間合いを詰め――、白髪の男へと抜き手を放つディアモルドであったが、その抜き手は空を切る。
「グホッ!」
白髪の男が放った拳がディアモルドの肉体をぶち抜き背中から爆ぜる。
さらにディアモルドの体は、凄まじい速度で岸壁に叩きつけられるどころか岸壁を破壊しながら、地中を数百メートル進み――、地面から突き抜け上空数千メートルまで舞い上がる。
「ガハッ! こんな……馬鹿な……ことが……。コトリバコを使い序列1位の力を手に入れたオレサマが、たった一発で――」
自身の体の損害を見て驚嘆するディアモルド。
彼は自身が喰らった呪いを反転し力にしたエネルギーの3割が、たった一撃の攻撃で消滅したことを把握し――、
「化け物めっ!」
目の前に瞬時に姿を現した白髪の男の男へ向けて高速詠唱を開始しながら、大鎌を引き寄せ横に振るうが――、
白髪の男が腕を振るっただけで大鎌が消し飛ぶ。
「――馬鹿な!」
さらに詠唱が終わった魔法が次々と繰り出されていくが全ての魔法が、白髪の男に到達するか否かで消滅する。
「魔法術式の無効化だと!? グハッ!?」
魔法を無効化された同時に、体を捻り直撃を避けるディアモルドであったが、腕の2本が白髪の男が放った拳の余波で消し飛び、空中で体勢を崩したディアモルドの頭を男の蹴りが撃ち抜く。
錐もみ状態になり地表に叩きつけられて数十本の木々を薙ぎ倒したあと、ようやく勢いが止まり頭上を見上げるディアモルドの目に移った無数の光の光源。
「魔光閃弾」
小さく呟く白髪の男は、指先をディアモルドに向けたあと、放つ。
無数の光の速度で放たれる反物質が、ディアモルドが倒れ込む山を消し飛ばす。
「あれは……一体……」
弱々しい口調で言葉を紡ぐアディール。
彼女は、白亜の妖術により応急治療を受けたあと、狐に変化した白亜の背中に乗り空中へと避難していたが、その二人の目に移ったのは信じがたい光景であった。
圧倒的なまでの力を見せていたディアモルドを赤子の手を捻るかのように圧倒する白髪の男は、何の感慨も躊躇もなく山を消し飛ばしたからであった。
「わからん。だが――、あれは……何と言う……。あれがご主人様の本来の力……」
「あんなの存在していたらいけない力……」
理解の追い付かない程の力。
それに恐怖を覚える二人。
二人が見てる中で、男の姿が消える。
「ありえない……、こんな馬鹿なことが……あるわけが……、魔族の力が一切通じない……こんな馬鹿なことが……」
山ごと下半身を消し飛ばされるばかりか再生能力すら喰われ――、コトリバコの呪術すら食われたディアモルドの前に白髪の男が姿を現す。
「きさまは……いったい……。あ――」
首を掴まれ持ち上げられ、白髪の男の目を見たところでようやくディアモルドは得心がいったのか声をあげる。
「き、きさま! 聞いた事があるぞ! ユート! そうか! 貴様が! あの神殺しの化物か!!」
ディアモルドが声を張り上げると同時に、その肉体は量子レベルで分解し砂となり消し飛んだ。
残されたのは、白髪の男だけ。
男は、周囲を見渡したあと手を振り上げる。
それに伴い周囲の環境が一瞬で再生されていく。
「信じられん……」
「回帰再生……、あんなの使えるのは――」
「うむ。理を律している者だけのはず」
一部始終を見ていた白亜とアディールの視界で、白髪から黒髪へと代わり体格が戻った男が――、桂木優斗が地面の上に倒れた。
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