第269話

 病院のヘリポートに到着したあとは、白亜の肩を借りてヘリから降りる。


「桂木警視監、お待ちしていました」


 ヘリから降りた俺を待っていたは神谷警視長。


「悪いな。それよりも用意は出来ているか?」

「はい。カロリーが取れるモノと言う事でしたので、すぐに用意しました」


 病院の離れの一室へと向かい、用意された食事を口にする。

 とにかく消耗した体力と、エネルギーを補給しないと何もできない。

 神谷に電話して用意しておいてもらった食事を口にする。

 30分ほどで、コンビニで買ってきたであろう20人前の食事を平らげたあと、俺は神谷の方へと視線を向ける。


「何か?」

「――いや、そういえば都の方はどうなっている?」

「神楽坂都さんに関しては、ご自宅にお戻りになられてから、とくに出歩いた様子はないです」

「そうか……」


 都は、異世界の魔法を何故か知らないが使っていた事もあり、気になり神谷に護衛をつけるように指示していたが、特に問題はないようだ。


「ところで、桂木警視監」

「どうした?」

「彼女は、人間ではありませんよね? 一体、どういう関係なのでしょうか?」


 先ほどから、きつねうどんを食べ続けてくる白亜の方と時折、チラリチラリと見ている神谷が聞いてくる。


「ああ。あれだ、妖狐ってやつだな」

「妖狐というと、九尾の?」

「たぶん、そんな感じじゃないのか?」


 俺もよくは知らんが――。

 そう言えば、神社庁から送られてきたメールに書かれていた白狐以外は、俺は白亜の素性をまったく知らない。

 まぁ、知る必要もないが――、


「妾のことを話しておったのか?」


 俺と神谷の会話を聞き取ったのか近づいてくる白亜。


「ああ。お前のことを、神谷が聞いてきてな」

「ほむ。このおなごは、ご主人様とは、どういう関係なのだ?」

「部下だな」

「つまり小間使いということか?」


 そんな白亜の言葉に――、眼光が鋭く輝く神谷は口を開くと、


「私は、神谷幸奈です。桂木警視監の公私の全般を支えていますが、何か?」

「ほ、ほう――。妾は、桂木優斗の正妻である! 立場を弁えて欲しいものだ」

「人でもないのに正妻とは……」

「何だと!」


 6本の狐の尾をピン! と、跳ね上げて苛立ったような様子を見せる白亜。


「白亜。落ち着け」

「ご主人様っ! この者が、妾を虐めるのじゃ!」

「はぁー、桂木殿。得体の知れない人外を、近くに置くことは、あまり良い事とは思えません」

「人外と言われてもな……。人間よりは信用は出来ると思うが――」

「――え?」

「いや、何でもない。それよりも、少し静かにしていてくれ。体の回復をしなければいけないからな」

「分かりました。それでは、私は警察本部に戻っていますので何かあれば、こちらで連絡をください」


 携帯を受け取り頷く俺。


「分かった。すまないな、毎回」

「いえ、予備はいくつか用意してありますので――。それと日本政府から、注意喚起が届いています」

「注意?」

「はい。あまりことを大ごとにしないで欲しいと」

「まぁ、言われるだろうな」


 白亜たちの話だと山を消し飛ばしたりしたらしいからな。

 そりゃ大ごとだろう。

 むしろ山の中で良かったと言ったところか。

 これが市街地なら、目も当てられない状況になっていただろうからな。


「それでは、私はこれで――」


 神谷が部屋から出て行く。

少しすると、少し離れた場所で、静かに一人でサンドイッチなどを食べていたアディールが床の上に寝転がる。


「アディール、大丈夫なのか?」

「問題ない。ユートと同じで、私も力を使いすぎただけ。そこの妖狐みたく周囲の霊気を吸収して力にすることはできない」

「なるほど……」

「ご主人様は、外気功は使うことは出来ないのか?」

「一時的に借り受けることは出来るが、根幹にあるのは自身の力だからな」

「人間というのは不便なのだな」

「まぁ、そういうことだ」


 完全に力が枯渇している状態だと、どうにもならない。


「そういえばユート」

「何だ?」

「白亜のことどうする?」

「どうするもなのにも……、どうするんだ?」


 俺は白亜へと語り掛けるが――、


「そうだの。とりあえず、妾が管理していた場所も消滅したし、僧の子孫も死に絶えコトリバコも消滅した。つまり、約定も無くなったと今では妾は暇になったと言える。なので、ご主人様の伴侶にもなった以上、一緒に暮らすのが正しい在り方だと思っている」

「まぁ、伴侶かどうかは別として、一緒に暮らすってことか」

「うむ」


 それは、妹が許可出してくれるかどうか、難しい点だな。



 

  

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