第264話

 ディアモルドが、崩れた本堂の中から姿を現し――、さらに体全体が膨らんでいき枯れ木のようだった、ディアモルドの姿は、重厚な黒光りする石で覆われたゴーレムへと変貌を遂げた。


「これで――、クズであるお前には勝ち目はなくなったゾ」

「そうかよ」


 俺の方へと、『ズシン! ズシン!』と言う重い足音を響かせながら向かってくるディアモルド。

 それを見ながら、体内の生体電流を練り上げて肉体の強化を最大限まで引き上げ、ディアモルドに向けて地面を踏みしめ跳躍する。

 5メートル近くまで巨大化していたディアモルドの懐に一瞬で入り込み――、拳を腹へ向けて繰り出す。

 石が砕ける音と共にディアモルドは後方へと倒れ込む。


「重いな」


 見た目どおり重量が相当ある。

 魔王軍の序列1位までは全員殺したが、序列2位以下と戦うのは、数回だけで、ディアモルドと戦ったのは初めて。

 鍛冶師の魔族が居るとは聞いていたが、まさか此処で会うとは思っても見なかったが――、


「オマエの攻撃ツウジナイ」


 何事もなく立ち上がるディアモルドの腹部には、巨大な亀裂が入っていたが、すぐに周囲の土や石などを吸収していき傷口を塞いでいく。

 

「まったく――」


 俺も攻撃した右腕が強化していたとは言え、バキバキに折れていたので修復していたが、どうやら消耗戦になるようだ。


「「「「「「「「「もう、手加減はシナイ」」」」」」」」」


 唐突に、複数聞こえてくる声。

 それと同時に、ディアモルドの頭部に存在していた4つの目が、口を開く。

 さらに両手の手のひらにも口が出現し、9つの口が同時に高速詠唱を開始し――、


「9つの詠唱を同時に行うだと!?」

「ニゲル、それはムリ。ここで、オマエはコロス」


 大鎌を手に巨大な体での動きとは思えないほどの速度で突っ込んでくるディアモルドは、頭上から大鎌を振り下ろしてくる。

 俺は、それを紙一重で避けるが――、とたんに足が砕け散る。


「――ッ。氷結魔法で足を――」


 さらに眼前で爆ぜる炎の魔法。

 防御する暇もなく空中を舞い、さらに空から不可視の風の刃が降り注ぐ。

 両手両足どころか胴体まで切り刻まれ――、さらに風の爆風魔法で吹き飛ばされ岸壁に叩きつけられ――、口から血を吐く。


「くそがっ!」


 肉体を修復し飛びのくが、熱波の魔法が俺の体表を焼き尽くし――、重力の魔法が体をその場に縫い留めると共に大鎌が俺の首を撥ねようと迫ってくるが、辛うじて修復が間に合った左腕で大鎌を受け止めるが――、その間にも詠唱は続いている。


「オマエ、ヨワイ」


 大鎌を振るい、俺の腕を切断するとディアモルドは暴風の魔法をぶつけてくる。

 俺の体は、地面に叩きつけられ、その上から直系1メートルもの氷柱が、俺の胴体を貫き地面へ縫い留めた。


「再生能力はタカイ。力もクズよりもツヨイ。だが、オレサマの敵じゃナイ」


 勝利を確信しているのか、ゆっくりと近づいてくるディアモルドに、俺は体を修復させつつ手を地面へと接触させ砂鉄を地中で集めると共に刃を成型する。


「そうかよ!」


 俺は、胴体を貫いていた氷柱を破壊し下半身を修復すると共に、腕を振るい砂鉄で作った無形の刃を振り回しディアモルドの体を切り刻む。

 次々と砕けていくディアモルドの体。

 さらに、魔法を唱えられても、俺が展開した無形の刃が空中で魔法を破壊していく。


「なん……ダト……!?」

「油断大敵だ」


 最後にディアモルドの巨体を真っ二つに斬り裂く。

 巨大なディアモルドの体は、倒れることなく、その場で鎮座しているが絶命したのは言うまでもない。


「はぁ……」


 思わず溜息が出る。

 いまの俺の力では序列3位程度の魔族を倒すことすら苦労することに。


「とりあえず――」


 コトリバコでも回収するかと思い至ったところで、ディアモルドの体が震える。

 そして空中に9つの黒い箱が出現すると、箱はディアモルドの9つの口の中へと入っていく。

 

「何が?」


 振動が強くなっていくディアモルドの体。

 内部から黒い光が漏れだし――、爆散するが――、


「まったく、たかが人間の為に、この俺様が――、これではイシス様に怒られてしまうな」


 ディアモルドの内部から出てきたのは、額に2本の角を生やした鬼。


「よう、人間。お前、相当強いな。お前のせいで、せっかく集めた呪いの力を使っちゃまったじゃねーか! 死ぬ準備は出来てるんだろうな?」


 地面に落ちていた大鎌を片手で振り回しながら、殺意を含んだ視線を向けてくると同時に姿が掻き消えると同時に、目の前が真っ暗になる。


「――ん? 反応出来てないのか?」


 流暢な言葉が、目の前から聞こえてくると共に、喉奥から錆びた鉄の味が込み上げてくると口から零れ落ちる。


「――なっ……」


 ようやく理解した。

 ディアモルドが、俺の胸を素手で貫いていたことに……。


「少し力の差がつきすぎたか? 体感的には序列1位くらいの実力になったのか?」


 事もなげにディアモルドが呟く。

 






 

 


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