第263話
「魔王軍? ディアモルド? 何を言って――、これって現実……?」
何も知らない人間からしたら突拍子もない言葉に聞こえるだろう。
それは、混乱しているアディールの様子からも分かるが――、俺は違う。
「アディール」
「何よ?」
「すぐに、この場から撤退しろ」
「撤退って――!? ユートは、どうするつもり?」
「俺は時間を稼ぐ」
「そんなの無理! ユートだって力を制限されているはず。それに霊力や霊視の力を持たないのに、あの鎌を相手にするなんて、毒の前に体を晒すのと一緒」
「俺の命令には従え! そういう風に神社庁から――、東雲から指示を受けているはずだ。それに、力が尽きた状態のお前では足手纏いにしかならない」
「――ッ!?」
飛来してくる炎の鳥を避けながら辛辣ではあるが、俺はハッキリと伝える。
アディールも、その事を理解しているのか、握りしめた拳に力を入れ唇を噛みしめると――、
「わかった。でも、どうやって? 帰り道は塞がれてる」
「簡単だ」
俺は身体強化したまま崖を垂直に上り続け、入ってきた通路入口へと到着する。
そして、ポケットからコインを取り出し空中へと放り投げると、電磁場を展開しレールガンを放つ。
俺が放ったレールガンは、通路を塞いでいた岩盤を粉々に破壊する。
「すぐに崩落が始まる。お前は、さっさと通路を抜けて紅が居る場所へ向かえ! いいな?」
アディールを通路前に降ろしたあと、俺はディアモルドの元へ向かって岩盤を蹴り移動する。
一瞬で、ディアモルドの眼前に着地したところで――、
「まさか、オレサマと戦えると思っているノカ? それで、あんなゴミを逃がしたノカ?」
「そうだとしたら?」
「ハッーハッハッハッハッ! オモシロイ! クズがクズをタスケル! オモシロイ! 本当にイラダツ! オマエを! クズ共を忌み嫌うように見ていたオマエをスカウトしようと思っていたが気がカワッタ! ココデ、おまえは――」
俺目掛けて横薙ぎに振るってくる巨大な大鎌。
それを、間合いを詰め――、頭を下げることで避けながら、振り切った状態の大鎌の柄に向かって掌底を放つ。
一瞬、両手が頭上に跳ね上がるディアモルドは、4つの目を俺に向けてくると口元では高速詠唱を行っていた。
――第4階級の氷系の魔法『アイスランス』
そう、見切りを付けた俺は構わずディアモルドの胴体へ向けて中段回し蹴りを撃ち込む。
吹き飛ぶディアモルドの肉体。
それと同時に、俺の体に直径20センチ――、長さ1メートルの氷柱が10本ほど突き刺さる。
「――ぐふっ」
思わず口元から血が零れるが、今は、どうでもいい。
「白亜」
「……ごしゅじ……ん……さ……」
「まだ生きているな? その体だと、器状態では、俺が回復を行えない。狐って言うんだから、狐に戻れるんだろう?」
「もどれ――死……」
「大丈夫だ。俺が、すぐに治す。だから、すぐに狐に戻れ」
白亜と会話している間にも本堂へと突っ込んだディアモルドが這い出ようとしてきているのだろう。
瓦礫の山が崩れる音が聞こえてくる。
俺の命令どおり、白亜の体が5本の尾を生やす白い体毛に覆われた狐へと姿を変える。
氷柱に貫かれたまま、俺は白亜の上半身と下半身の傷口を合わせると手を翳し細胞を修復していく。
わずか10秒が永遠と思えるほどの長い時間。
「ご主人様――、申し訳ありません」
「気にするな。それよりも、撤退中のアディールと合流して、すぐにこぶ山から離れろ。戦いの邪魔だ」
「――分かりました」
何事も無かったように四肢で大地の上に立ち上がった白狐は、俺の命令どおり通路へと向かって走り去っていく。
それを視界の端で確認したあと、俺は身体強化したまま体中に力を入れる。
体内で凍結していた氷柱は電荷の熱により瞬時に蒸発――、砕け――、周囲に散らばる。
「まさか、タイジュツでオレサマを吹き飛ばすとは、面白いクズだ!」
本堂が、暗闇の閃光で吹き飛ぶ。
そして――、中からは4本の腕を持つディアモルドが姿を見せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます