第262話

「良かろう! 炎の術を得意とする妾に、炎を放ってくる小賢しさ、正面から受け止めてやろう!」


 白亜が手を翳すと、彼女の正面に青く燃える巨大な2メートルを超える炎が発生する。

 炎は、一つだけでなく次々と出現し、薄く引き伸ばされると炎の壁となり、アディールが放った炎を真正面から受け止める。


「――なっ!」

「所詮は、小娘! 才能はあるし、機転を利かす能力もある。だが――、それだけだ。圧倒的に力が足りておらん!」


 青白い炎の壁が、アディールの炎を喰い尽くすと共に、白亜が手を横薙ぎに振るう。

 それに従うかのように炎の壁がアディールへと向かう。

 術を出したばかりで体勢の崩れていたアディールは、それを避けることは出来ずにまともにくらい、吹き飛ぶ。

 11歳という軽い体が空中に舞い上がり、地面へと落ちる瞬間――、消えた結界から俺は飛び出すと、アディールの体を受け止める。


「少しやりすぎだぞ」

「死なない程度に手加減はしたのだ……」


 ばつの悪そうな表情を俺に向けてくる白亜。


「ユート……。ごめんなさい。守ってあげられなくて……」

「あーなんというか……」


 何と説明した方がいいか。

 ここは、最初から茶番だったと説明するべきか考えたところで、俺は頭上を見上げる。


「白亜っ! 避けろ!」

「ご主人さ――ッ!?」


 俺の言葉に反応した白亜が、それまで立っていた場所から飛びのくと、その瞬間――、巨大な黒い閃光が白亜が居た場所へと降り注ぐ。

 閃光は、さらに巨大化していき、俺はアディールを抱きかかえたまま後方へと跳躍し避ける。

 巨大な黒い閃光は、数秒後には消失し周囲には粉塵だけが舞い上がるが――。


「クックックッ――、ハーハッハッハッハツ。下らない。実に、下りませんネ!」

「――ッ。――カハッ!」


 粉塵の中から甲高い苛立ちを覚える声と共に、苦悶の声が聞こえてくる。

 そして突風が巻き起こり、粉塵を吹き飛ばした。

 砂ぼこりの中から、まず現れたのは、黒いマントを羽織った細見の存在。

 顔には、4つの目と、耳元まで割れた巨大な犬歯の口――、明らかに人ではない異形。

 体格は2メートル程と推測できるが、細見のせいで、そこまで圧迫感を感じないが――。


「ごしゅじ――グボッ――」


 俺の方へと手を向けてきた白亜であったが、彼女の胸元を貫いていた死神が持つような鎌が揺さぶられ、刃に体が斬られると同時に血を口元から吹き出す。

 

「愚かデスネ! クズに篭絡サレルトハ! コレを作ってきたイミがナクナルではありませんカ!」

「なに……を……いっ……て……。きさま……いっ……た……い……」


 途切れ途切れになる白亜の声。


「おい! そいつを離せ!」

「黙りナサイ! クズが!」


 割って入ってきた異形が、手を俺の方へと向けると、高速詠唱を開始する。

 1秒にも満たない高速詠唱が終ると、100を超える炎の鳥が俺に向かって飛んでくる。

それは、異世界アガルタで魔族が扱う第9階級の炎系の魔法『フレイムバード』であり追跡を行うこともできる。

威力は一撃で民家程度なら吹き飛ばす程の威力を持つ。


「――くっ」


 身体強化をした上で、俺はアディールを抱きかかえたまま岸壁へ向かって跳躍し追って来た炎の魔法を岸壁にぶつけて消していく。


「ホウ! クズが、面白いマネをしてくれますネ!」


 さらに詠唱を開始する異形。


「ユート。あれは……、何? 妖力を一切感じない。あんなに強い妖怪を、一撃で倒すなんて……あれって……」 

「今は黙っていろ! 舌を噛むぞ!」


 いきなりの魔族の出現。

 それに――、俺は魔族が手に持つ鎌へと視線を向ける。


「ライフイータか」


 命を喰らう魔道武器だが、一番、厄介な点は、殺せないモノでも殺せると言った特性を持つことだ。

 文字通り、生命力を奪う呪われた武器。

 

「ユート」

「だから――」

「ユートには見えないと思うけど……、あの鎌……、人間の魂が使われている……」

「何!?」

「ずいぶんと勘のいいゴミがいるネー。この魔物のタメに作った特製品ダヨ! 人間を原材料にツクッタノサ! 面白いダロ? コイツは仲間に誘ったのに靡かなかった。ダカラ、主様が、コイツを縛っている鎖を切るためにツクッタのに、コイツは、人間にツイタから、コイツにはセイサイだ。主に従属シナイヤツは危険だからネ!」


 かなりの距離があるというのに、俺達の話に答えてくる魔族。


「おろか……な……。ひとを……さげすむような……やからと……手を……むすぶ……つもりは……」

「ダカラ、お前達、ヨウカイはムシズがハシル!」


 魔族が大鎌を振り回す。

 それにより白亜の上半身と下半身が千切れ、地面へと軽い音と共に落ちる。


「マァ、これでコトリバコも9個ソロッタ。あとは、そこのゴミ2匹を殺してカエレバいい」


 俺が、魔族からの攻撃を避けていた間に、本堂は完全に破壊されて尽くしており、本堂の瓦礫の中から小さな黒い箱が浮かび上がり、魔族の手に納まる。


「ど、どういうこと? 何が、どうなって……。どうして妖怪が妖怪を殺して……」

「ナンダ? コノ、オレサマのコトをヨウカイ? ハーハッハッハッ。無知ダネ! こんな出来損ないのゴミとオレサマと一緒にするとは――。本来なら、スグに殺すヤツに明かさないがイイダロウ。オレサマは、魔王軍四天王の一角――、死霊王イシス様の配下序列3位の呪術鍛冶のディアモルドだ」


  



 

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