第260話
『待っておったぞ!』じゃねーよ! と、思わず心の中でツッコミながらも、俺は平静を装う。
「ユート。あれは……。そう……ユートも顔を引き攣らせる程、危険な化け物だって理解している……」
どうやら、表情は殺しきれなかったようだ。
的確に近い感じで、アディールも、俺の顔を見て真剣な表情で一人呟いている。
「ふっ。驚いているようだの! 妾は――」
「黙れ! 妖怪!」
白狐の白亜の言葉を遮り――、幾つもの札らしきモノの懐から取り出し、臨戦態勢を取るアディール。
「――え?」
いきなりの事に、疑問の声を上げる白亜。
彼女は、過剰なまでの行動をとり発言をするアディールに、首を傾げる。
それに伴い絹糸のような繊細優美な金色に輝く長く美しい髪が、首を傾げる動作に合わせて流れるように垂れていく。
「霊力を持たないユートには分からないと思って、このような手段で油断を誘おうとしても無駄! この神社庁! 神薙の一人、アディール・エリカ・スフォルツェンドを騙そうとしても――」
「(ご主人様。あやつは何を言っておるのだ?)」
アディールが名乗りを上げている間に、俺の傍へと近寄ってきて、こっそりと小声で話しかけてくる白亜。
「(とりあえず、お前が、こんなアホな歓迎をしたから誤解したんだろ。上手く話しを合わせてくれ)」
「(ご主人様が、そう言うのなら仕方ないの)」
「ユートから離れろ!」
幾つもの札が、俺の傍へと来ていた白亜に向けて飛んでくる。
それらの札を、避けて躱す白亜。
「くくくっ――、よく分かったな! 小娘!」
「妖怪は、殲滅する! お前は、妖力を持っている。だから危険! その力は特に!」
「良かろう! 相手をしてやろうではないか!」
「あー」
「ユート!? どうした?」
「いや、何で戦う流れになっているんだ?」
「ユートは分かってない。神様の力を得ただけで、その力を振るうだけのユートは何も分かってない」
「何で二回も言った……」
「ユート。教えてあげる。妖怪に良い奴は一人もいない。殲滅するのが、一番効率的」
「まぁ、敵は殲滅した方が効率良い事は俺も認めるが……。一応、神社庁からのメールに目を通したよな?」
「見た。白狐が居る可能性があるって。でも、それはどうでもいい」
「どうでもいいって……」
「実際、死人が出てる。そして妖怪は人間の肝を食べる事を至上の快楽とする。つまり、あいつは倒さないといけない」
チラリと、白亜の方を見ると全力で頭を左右に振っている。
まるで『僕、悪いスライムじゃないよ?』と、言っているかのようだ。
「とりあえず話し合うってのはどうだ?」
「……ユート」
白亜の方を見ながら、深刻そうな声で――、低い声で俺の名前を呟いてくるアディール。
「狐は、相手を騙して篭絡する」
「何の話をしている?」
「ユートは霊力がない。つまり霊的な防御力が皆無。ユートは、目の前の女狐に洗脳されて操られたに違いない」
「お前、少しは俺の話を聞けよ」
「敵に寝返った神の力を持っている男は使えない。だけど、私が守る。だから、安心していい。だけど……」
アディールが両手で印を切ると、俺の周囲に札が出現して小さな光のドームが形成される。
「それは、神と契約した神薙が使える防御術式。霊力を持たないユートじゃ、そこからは出られない。でも、操られて敵になるよりはマシ」
「待てよ。少しは、俺の話を聞け」
「ユートは強い事は聞いているし資料にも目は通してある。だけど、それは相手が霊力を持った上で絡め手を使ってこなかっただけ。だから、ユートは、私が守る。一般人を守るのは、私達、神薙の仕事」
お前は、候補生だろと思いながらも、盛大に勘違いをしているアディールを見て、俺は溜息をつく。
「ほう。穏便に済ませてやろうと思ったが、小娘! 妾の御主人様を、そのように下劣に蔑むとは、些か不敬であるぞ!」
「白亜!」
「ご主人様。さすがに妻として、この小娘の言動は許す事はできない」
いつから妻になったんだ?
「ようやく本性を現した! ユートをご主人様と呼ぶという事は、神の力を手に入れようとしている! そうこと!」
「神の力だと? 小娘! 悪ふざけも大概にすることだ!」
「お前がな!」
どんどんと、アディールと白亜の言葉の応酬が張り詰めていき、緊張感が高まっていく。
俺の話を一切聞かないアディールと、何故か知らないが、俺を擁護する為に、妻という単語まで使い出す白亜。
「どうしてこうなった……」
どこで間違っていたのか? と、自問自答するが、俺に悪い点は、どこにも見当たらない。
つまり二人が悪いってことで良いって事か。
「はぁ……」
とりあえず、アディールは白亜を殺すつもりのようだが、白亜は懲らしめるだけのようで殺気は感じない。
俺が下手に割って入るよりも、喧嘩をさせて互いにスッキリとさせた方がいいだろう。
どうせ白亜の方が、アディールよりも実力的には上だし。
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