第259話

「それと、主様や。妾のことは、白亜と呼んで欲しいのだ」

「分かった。白亜、あとは任せたぞ」

「――う、うむ。任されたのだ」


 白狐の白亜と別れて通路に戻ったあとは、通路を塞いでいた岩盤は、そのままに。

 俺は壁に背中を預けて目を閉じた。

 

「ユート」


 体を何度か揺さぶられる。

 ずっと起きてはいたが、寝ているふりをしていたので、アディールが起きてくるまで待ってはいたが、蹴られることも覚悟していたが、そんな事はないようだ。

 肩を揺すって話しかけてきているアディールへと瞼を開けて視線を向ける。


「朝か?」

「うん。ユート、通路見る」

「塞がっているな」

「うん。たぶん、昨日、確認した妖力を持った奴の仕業。私達を帰すつもりはない」

「どうだろうな」

「間違いない。問題は、どうして生き埋めにしなかったこと」


 深く考えているな。

 まぁ、多種多様な状況を想定して考察を重ねることは悪いことではない。


「ユート?」

「とりあえず、朝食を摂った後に、キャンプ道具を片付けるぞ」

「わ、分かった」


 食事を摂ってキャンプ道具を片付けたあとは、リュックを背負い通路から出る。


「ユート、気を付ける。昨日よりも妖力を持つ化け物が増えている。村の周りから調べていくのがいい」

「そうだな」


 二人して崖に沿って存在する通路を村に向かって降りていく。

 廃村の様子がシッカリと見えてきたところで、アディールが足を止める。


「あれは、どういうこと?」

「どういうことなんだろうな?」


 廃村入口には、10メートル近くの木製の杭が2本打たれているばかりか、杭の間に横断幕らしきモノまで掛けられている。

 さらには、横断幕には『ようこそ! こぶ山の隠れ村へ!』と、書かれている。


「ユート。敵は、どう考えても、こちらの存在に気が付いているばかりか、何かがおかしい」

「ああ。本当におかしいな」


 マジでおかしい。

 流石の俺も、この展開は予想外だ。

 あとで白亜を問い詰めておくとしよう。


「これは、知能ある妖怪の仕業。問題は、通路を崩落させておいて『ようこそ』なんて、こちらを馬鹿にしている」

「……」

「どうしたの? ユート」

「いや、何でもない」


 どうして、屋根の上に乗って、俺から見える場所で白亜は、親指を立てていたのか。

 まるで、不信感を抱かれないように『やってやったぜ!』と、見せているようだ。

 ――いや、逆に不信感を煽っている結果になっているんだがな……。


「これは、撤退した方がいいかも知れない」

「いやいやいや。ここまで来て撤退とか駄目だろ」

「でも、相手の意図が読めない。明らかに、おかしい」

「まぁ、おかしいのはおかしいな」


 俺は、こういう対応を白亜に期待していた訳ではないんだが……。


「待っておったぞ!」


 さて、どう説明していいか頭を悩ませたところで――、横断幕の下に白い着物を着た白亜が姿を見せ語りかけてきた。



 



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