第254話

「ありえないって――、ふっ……」

「な、何よっ!」

「――いや、小さな尺度で物事を見ていると思っただけだ」


 俺は、波動結界で感知した場所へと向かう。

 ペンションから出て到着した場所は、社で――、綺麗に手入れがされている事から、きちんと管理者が仕事をこなしていた事が分かる。

 社の大きさは、高さ10メートル、四方は20メートルほどの木製で、こんな山の中でと思うほど立派に作られた建物。


「これが、コトリバコのレプリカか?」

「そう」

「そうか」


 俺は、コトリバコのレプリカに手を触れるが何も起きない。

 そして、そのままコトリバコへと生体電流を操作し負荷をかけた後、粉々に破壊する。


「ユート! 何をして!?」

「少し静かにしていろ」


 俺の言葉にアディールが溜息をつきつつ従う。

すると社の中の床が一部だが、スライドしていくと同時に地下へと通じる階段を形成していく。


「これって、隠し通路!?」

「そのようだな」


 波動結界により地下に通路のようなモノを見つけたから、何かギミックがあると思い来てみたが正解だったわけだ。


「ねえ。ユート」

「何だ?」

「あれって霊力がトリガーだった?」

「そうだな」


 曖昧に頷く。

 一種の賭けではあったが、生体電流を利用した俺の技を神域と誤解している点から、俺の技は霊力に似ている可能性があるかも知れないという考察は以前からしていたが、当たっていて良かった。

 

「そもそもレプリカが置かれている時点で、おかしいとは思っていたんだがな」

「それって本来は置く必要がないってこと?」

「まぁな……。本物なら危険だろうし、偽物だって置く必要はないだろ。つまり偽物を置いてまで何かをしたかったという事だ」

「それって神社庁からの――」

「ああ。神社庁の上層部は何かしらの分かりやすい錠前を用意しておくようにと事前に命令しておいた可能性がある。むしろ、そう考えた方が説明がつく」


 階段を降り、真っ暗な暗闇の中で、俺は身体強化を行い視神経を強化し歩き出す。

 そんな俺の後を何も言わずにアディールが着いてくるが――。


「ユートは、霊力による身体強化は出来る?」

「――ん? ああ、そうだな」

「ふーん」

「何だよ」

「神社庁は、ユートの霊能力者としてのレベルは特Aランクよりも上だって判断していた」

「ほう……」

「姫巫女様の神薙候補である私よりも上だと」

「そっか」

「興味ない?」

「まったくないな」

「…………ユートは、何も理解してない。神薙は、姫巫女様を守るための護衛で霊能力者としては超一流のSランク。それと同等と評価されている事の凄さがユートは分かってない」

「別に理解するつもりもないな」


 暗闇が支配する石の回廊を歩きながら言葉を返す。

 300メートルほど歩いたところで前方に光りが見えてくる。


「どうやら、外のようだな」

「さっき、結界を抜けた。ユート、気が付かなかった?」


 何だか、ずいぶんと俺を敵視してくるな。

 

「あるかどうか分からない程度の結界なんて俺にとっては無いのと同じだ」

「……ユート」

「何だ?」

「ユートは、神社庁の神薙からは嫌われている」

「それで?」

「…………私もユートは好きじゃない」

「別に誰かに好かれたいとは思ってないからな」

「ユートは、神様に力を与えられただけ。何の努力もせずに才能もないのに、与えられた力を私利私欲に使っている。嫌われるのは当たり前」

「それで?」

「ユートには、才能の無い人の気持ちが分かってない」


 その言葉に俺は肩を竦める。


「他人が、どう思うとどうでもいい」

「――!」


 目を見開くアディール。


「俺は他人のために動くなんて馬鹿らしい真似は止めたからな」





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