第253話

 山の中の畦道を登っていく。

 5月初旬と言う事もあり、雑草は伸び放題で――、畦道が隠れている場所もある。


「ユート!」

「どうした? アディール」

「歩くの早すぎ!」

「――いや、早くいかないと日が暮れるだろ」


 衛星携帯電話でGPSアプリを起動し、自分の場所を確認しつつ、振り返らずに言葉を返す。


「むーっ!」

「とりあえず急ぐぞ。日が暮れると山の中は面倒だからな」

「分かったからっ」


 俺は、GPSで方角を確認したあと、歩き出す。

 そんな俺の後ろをぴったりと着いてくるアディール。


「やれば出来るじゃないか」

「ふんっ! ユートは、もう少しレディーファーストを覚えた方がいいと思う」

「日本の価値観に染まっているのか? レディーファーストというのは、元々は危険な地帯に男の身代わりに始まったのが始まりだぞ? それに、俺は一緒に戦う奴は特別扱いはしないからな。足手纏いなら置いていく」

「分かったわよっ!」


 反骨精神なのか知らないが、畦道を登る俺の移動速度にアディールは、後ろをピッタリと着いてくる。


「身体強化か」

「何で分かったの?」

「決まっているだろ。小学高学年の体力で俺の後を着いてくるのは無理があるからな」

「もしかして、分かっていて、さっき私に着いてこいって言っていたのっ!?」

「まぁ、そんなところだ」


 歩きながら、俺は答える。

 それにしても、身体強化で力の無さを補うとは、俺が思っていたよりも神薙というのは何かしらの力を有しているのかも知れないな。


「アディール」

「何よ?」

「神社庁の霊能力者は、どんな事が出来るんだ?」

「色々出来る」

「色々とは?」

「答えるつもりはない」

「なるほど……。たしかに、自分の手札を見せる必要はないよな」

「それに、ユートは警察庁所属だし」

「一応、神社庁のフロント企業にも表向きは登録しているぞ?」

「表向きはでしょ? ――なら、答える義務はないから」

「それは残念だ」




 他愛もない会話をしながら山道を3キロ近く歩いたところで、俺は足を止める。


「何? どうしたの?」

「一軒家が建っているな。あとは社も見えるが――」


 問いかけてきたアディールに、俺は周囲を見渡しながら語り掛ける。


「これって……」

「分かったか?」

「う、うん」


 波動結界を展開するが、虫などの生きものの生命反応を確認することは出来るが、人間の生存確認は取れない。

 

「アディールは、社の中を確認してくれ。俺は、一軒家の方を確認してみる」

「――わ、分かった」


 手分けして調べることにする。

 俺は、ペンションのような形式で建てられている建物の中へと入り、入口からリビングへと土足で上がり込む。


「これは、酷いな……」


 リビングで倒れているのは30代後半の男性死体。

 床には乾いた血が固まっているのが確認できる。

 さらに、台所には女性の死体も散見出来た。


「死因は、男の方は頚椎の損傷か。だが――」


 俺は20代後半の女性の死体を確認する。

 腹部が鋭利な刃物に斬られているだけでなく――、内臓が乱暴に掻き出されたような跡がある。


「何かの儀式に使ったということか?」

「ユートって!? これって……」

「どうやら、神社庁の関係者の人間は既に殺されていたみたいだな。社の方は何か手掛かりはあったか?」

「ううん。偽物のコトリバコだけが置いてあっただけ。たぶん本物は集落にあると思う」

「――なら、集落に向かうのが先決か」

「うん」


 死体の見分をしたあと、俺は家の外へと出る。


「――ねえ。どうするの? ここの守り人から、集落への行き方を確認するはずだったんだよね?」

「問題ない」


 波動結界を周囲に展開――、周囲の地形などを数百メートルの範囲で確認していく。


「向こうか」

「――え? いまのって神域? ユートって、神域が使えるの!?」

「俺のことは話に上がっていなかったのか?」

「神域に関しては、聞いていたけど、本当に使えるなんて思っても見なかったから。だって霊力ないし、霊視の力もないのに神域を展開できるなんて、そんなのありえないし……」  



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