第252話

「――でも、桂木君が資産を持っているってことは、例の遺跡でも販売したの?」

「例の遺跡?」

「貴方の学校の地下に存在していた遺跡よ。あそこのピラミッドって、輝き方からして黄金だったわよね?」

「販売もしてないし、俺の土地でもないからな、まぁ、普通の黄金だったら、俺が見つけた時点で、1割か2割くらいは謝礼としてもらえたかも知れないが……、あれはな――」

「違うの?」


 俺は頷く。


「ああ。そもそも時の止まった物質なんて加工することが出来ないからな」

「――え? 時の止まった?」

「考えてみろ。何百トンあるかは知らないが、そんな金をまるまる売買するなんて不可能だろ? それに、加工、切り分けも出来ないんだから工業用としても利用する事もできない」

「つまり、金としての価値は無いとは言わないけど、限りなくゼロに近いということになるのね」

「その通りだ」

「ユート。時の止まった物質って何のこと?」

「神社庁には話は、降りてきてないのか?」

「神薙候補でも、政治的な話は降りてこない。住良木を見ていれば分かる」

「たしかに……」

「それで、時の止まった物質って、古代のオーパーツ?」

「わからん」


 正直、俺には考古学の知識はない。

 

「ユート。神様の力を得ているのに役立たず……」

「それを言われると俺は何も言えないな」

「それにしても、時の止まった物質って桂木君の力で何とか出来ないの?」

「無理だな」


 俺は肩を竦める。

 そもそも時の止まった物質を破壊する方法すら、俺がアクセスしたアーカイブには存在していなかった。

 まぁ、書庫の番人であるリオネデイラなら何か知っているかも知れないが……、俺には関係の無い事だったからな――。


「それは残念ね。今、金とか1グラム7000円くらいまで値上がりしているのに……」


 溜息交じりに紅が未練たらたらのように呟いているが、出来ないモノは出来ないのだ。

 



 ――それから3時間ほど東北自動車道を北上したあとは、磐越自動車道へと乗り換え喜多方市から121号線で北上。

 両側が畑や山林しかない場所に敷かれている道路を車はひたすら走り、しばらくしてから国道に移る。


「道路は立派だけど、お店は、何もないのね」

「釣り堀はあるみたいだけどな」

「川がすぐそばにあるのに、釣り堀って必要なのかしら?」

「さあ?」


 会話している間にも、紅が運転する車はカーナビが指し示す通りに山へと向かって川沿いに作られた一車線の道路へと進路を取る。

 自然豊かな中、まっすぐに走る道路を走ったところでペンションが見えてくる。


「あれが大日杉小屋みたいね」

「神社庁から送られてきた資料と同じだな」


 スマートフォンの画像を確認するが間違いはないようだ。

 車を開けた場所へと紅が停めたあと、俺達はペンションへと向かう。

 

「気配を確認した限り、管理人はいるみたいだな」

「そう。良かったわ。それよりも少しは休憩をしてから山登りしたいのだけど……」

「安心しろ。ここからは山登りだからな。紅は、小屋で休憩していてくれ」

「――え? もしかして、私は置いてきぼり?」

「写真は借りていく。あと、運転で疲労困憊の人間を登山に連れていくほど、俺は鬼じゃない」

「そう。それじゃ、二人が戻ってくるまで、私は、ここで休ませてもらうわ」

「それがいいな」


 紅が、車から登山用の荷物を取り出していく。


「一応、登山用品一式持ってきておいたわよ?」

「ああ。必要ない」

「――え? でも、無いと困るわよ?」

「現地調達するから問題ない」

「そうじゃなくて、そっちの子の分」


 視線をアディールの方へ向けている紅。


「そうだな。一人分はあるのか?」

「ええ。あるわよ」

「それじゃ、それを背負っていくとするか」


 紅から、一人分の登山用品を受け取る。


「アディールは、これから山に登るが何か必要なモノはあるか?」

「大丈夫」

「そっか。なら行くとするか」

「うん」

「それじゃ、幸子。何かあったら電話をしてくれ」

「ここ、圏外なんだけど?」

「――ほら、これ」

「これって?」

「衛星携帯電話だから、ここでも使える」

「それじゃ、桂木君は――」

「俺は、もう一個、持っているから問題ない。一応、ワンタッチで連絡がつくように履歴だけは残しておくぞ?」

「分かったわ」


 電話番号の履歴が残るようにワン切りしておく。


「――それじゃ、何かあったら連絡してくれ」

「気を付けてね」

「ああ」


 俺は登山リュックを背負ったあと、2メートルを超える大太刀を手にアディールと共に山登りを開始した。

 

 

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