第251話
社務所が見えてきたところで、神主の恰好をした男が一人、境内に立っているのが見えた。
男は、こちらに気が付くと近づいてくる。
「桂木優斗さんで宜しいでしょうか?」
「ああ。そうだが――」
「私、総責任者の山村道史と申します。それと、こちらが祢々切丸(ねねきりまる)になります」
「すまないな。急がせてしまって――。あとで返しにくるから」
「――いえ。お気になさらず――。桂木優斗さんの話は、神主の間では既に有名ですので――」
「それは、良い噂か?」
「もちろん」
ニコリと微笑んでくる山村という神主。
「桂木さんは、かなりの資産家という事を伺っております。日光東照宮では、文化財の維持のために、寄附金を承っておりますので、そちらで形にして頂ければ――」
「……」
つまり寄附金という事で、快く神刀を手放してくれるという事か。
まぁ、国宝重要文化財だからな。
こちらとしても背に腹は代えられない。
すぐに神谷に電話をし、手続きをするようにと指示を出す。
「10億、用意した。後程、振り込み手続きをする事になったから宜しく頼む」
「お心遣い感謝致します」
総責任者と別れた後、すぐ車に戻る。
「あら? もう戻ってきたの?」
「ああ。神社庁の方で、すでに話は通しておいてくれたからな。急いで『こぶ山』に向かうとしよう」
「少し休みたかったのだけど……」
「仕方ないだろ。時間がないんだから」
「分かったわ」
渋々と言った様子で、運転席に乗り込む紅。
俺とアディールも、車にすぐに乗りシートベルトを締める。
「ねえ。ユート」
「どうした?」
「ユートって、金持ちなの?」
「まぁ、小金持ちってところだな」
実際、残りの残金は3000億程度だろう。
2兆5000億ほど手に入れたが、殆ど使い切った。
主に税金や陰陽連を買い取ったからであったが――。
「ふーん」
「何だよ」
「何でもないからっ」
「桂木君」
「どうした? 幸子」
「桂木君って、お金持ちなの!?」
「どうして、お前までもが興味津々なんだ……」
「少しだけ気になっただけだけど?」
「余計な事を言う前に、お前は運転をしていろ」
「酷い……」
「分かった分かった。あとで、それなりの報酬を渡すから――」
「桂木君って、お金に無頓着だって言われない?」
「仕方ないだろ。金は命には代えられないからな。それに金を出し渋って、失態を犯したら目も当てられないからな」
「それは、そうね」
そこは、素直なのか。
「随分と簡単に受け入れるんだな?」
「それはそうよ、私立探偵していると金払いのいいクライアントを優先するのは当たり前になってくるから」
「それはそうだな」
冒険者の時も依頼料が安ければ適当に仕事をしていた奴もいたからな。
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